2024年12月24日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月27日

Oleksii Liskonih/Gettyimages

 英フィナンシャル・タイムズ紙の1月5日付け社説‘Brazil’s Lula can succeed through pragmatism’は、ブラジルの大統領に返り咲いたルラ新大統領が成功するために、国際投資や貿易開放を活用すべきだと論じている。要旨は次の通り。

 ルラの初期の動きの多くは心強い。アマゾンの森林破壊を止め先住民族を保護する決意、社会的および人種上の公正を追求する姿勢、飢餓を撲滅する約束、ボルソナロ前大統領の信望者により混乱した主要な省庁に専門的なリーダーシップを回復させるという公約など、いずれも歓迎されよう。

 西側諸国、ロシア、中国に影響力を持つ途上国の大国であるブラジルの立場は、外交的な機会を得ることができる。最大限の圧力としての制裁が見事に失敗した米国のベネズエラやキューバとの交渉において特に貴重となり得る。

 しかし、ルラの過剰な介入主義や財政責任を果たさないことへの懸念から金融市場は暴落している。憲法で定められた歳出上限を「馬鹿げたこと」と断じたことは、軽率だったかもしれない。国営石油会社ペトロブラスと国立開発銀行を経済発展の原動力とする公約は、過去の失敗を思い起こさせる。

 今回の僅差の選挙結果は、ルラの労働者党に対する国民の不信感の大きさを示す。労働者党は過去の失敗(汚職、ルセフ元大統領の弾劾、不況)から学んだことを示す必要がある。

 ルラは、経済的・政治的に寛容でない環境を乗り切るために、現実的な政治を行い、彼の勝利を支えた広範な連合の有能な人材を活用すべきだ。

 ルラの最大の課題は、10年間の停滞の後、ブラジルを力強い持続可能な成長に戻すことである。そのためには、税制の簡素化、貿易経済の開放、教育の改善、インフラ投資の拡大など、大胆な取り組みが必要だ。

 野心的な選挙公約のための資金調達の方策は、差し迫った問題だ。借入れを増やす余地はほとんどないが、削減できる無駄はある。「より大きい政府」ではなく、「より良い政府」が答えとなろう。

 社会的公正、環境保護、持続可能な成長という要請を調和させるためのルラの最善策は、ブラジルの巨大な潜在的経済力を引き出すために、国際投資と貿易の力を活用することだ。そうすれば、真の意味で歴史的な3期目への道が開けるだろう。

*   *   *

 この社説は、ルラ政権が成功するためには、大胆に経済自由化に舵を取るしかないと提言しているわけであるが、そうはいかないというのがブラジルの現実のように思える。

 1月8日に起こったボルソナロ派の大統領府など襲撃は最初の警鐘だ。ボルソナロの党は下院の最大政党であり、ルラ政権が躓き国民の不満が高まれば、再びその受け皿となることを狙っているであろう。価値観の分断や左派的政策に対する批判は根強く、今後も様々な形の揺さぶりを受けるであろう。

 政権の置かれている政治的な状況や選挙公約、新政権の閣僚の顔触れや閣僚の数などから考えると、ルラには、社説が言うような外国投資や市場経済化を通じて経済を活性化する発想を期待するのは無理のように思える。

 確かに、ルラ当選の背景には中道派を含む広範囲な政治的連合があったが、中道派の有権者の意識としては、ボルソナロを忌避したのであって、ルラの公約を積極的に支持した訳ではなく、中道派が一致して連立政権に参加しているわけでもない。

 労働者党だけでは過半数にはるかに届かないので、中道派もアルキミン副大統領兼商工相などが政権に参加しているが、アダッジ財務相始め要職に労働者党の閣僚が多数配置され、ルラ当選に大きく貢献し企画予算相に就任した中道派の「ブラジル民主運動」のテベテは格差是正と貧困対策を最重要視しており、投資と貿易に政策の重点が置かれることにはならないであろう。


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