政治学者でブラジル有数のシンクタンクの創設者でもあるザボーが、ブラジルのルーラ次期大統領の4つの重要な優先課題を提示し、ブラジルの外交力、経済力、環境上の重要な役割を活用すれば成功する可能性があると、Project Syndicateのウェブサイトに11月15日付で掲載された論説‘What Lula Must Do’で論じている。主要点は次の通り。
(1)環境大国として脱炭素化経済のリーダーとなり、アマゾンの森林破壊を止める。熱帯林保護についてのグローバル・サウスでの多国間イニシアティブを強化することができるし、そうする必要がある。
(2)国内の和解と共存の促進。政治の分極化が暴力のリスクを高めている。新政権は、市民社会および主要なデジタル・プラットフォームとより緊密なパートナーシップを築き、偽情報を抑制し、市民権とデジタル権を保護する必要がある。
(3)貧困、不平等、食糧不安に対処するためのグローバルなイニシアティブの再活性化。新型コロナウイルスの大流行とウクライナ戦争により、多くの低・中所得国の持続可能な開発努力は大きな挫折を味わった。世界的な金融・財政状況の悪化に伴い、多くの国が債務危機に陥り、最も脆弱な地域社会が最も大きな打撃を受けることになる。ルーラ大統領の下、SDGsだけでなく、世界の最貧困層に実質的な利益をもたらす「南-南」協力の緊密化を促進するアジェンダを提唱すべき。
(4)新たなグローバル・リスクに対する多国間行動の喚起。大量破壊兵器を禁止する規範を強化し、新技術に伴う弊害の除去し、及び気候関連の緩和と適応への投資を動員するため、政治的、外交的リーダーシップが必要。特に、地球温暖化に責任がないにもかかわらず、最大の被害を受ける国々を支援することが重要。
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この論説では、(1)の環境大国としてのリーダーシップに特に力が入っているが、ルーラもこの点はやる気十分で、エジプトでの国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に参加し、この論説で提言されている森林破壊の取り締まりの強化や先住民の保護のための特別省を設置し、2025年のCOP30をアマゾンに招致する意向を表明した。ブラジルがボルソナロ大統領の森林破壊政策を転換して世界の森林保護の先端に立つことは、二酸化炭素(CO2)吸収による温暖化防止のために極めて望ましく、国際社会も支援すべきであろう。対米、対EU関係の改善にも資するものだ。
課題(2)の国内の和解は極めて難しい。議会で過半数までは届かないが最大多数党となったボルソナロ氏の自由党は、社会的価値観の分断を梃子に文化戦争を仕掛けてくるであろう。もっとも、中絶問題は、国民の多数が中絶禁止に賛成なので、焦点は、性的マイノリティ問題や先住民問題、アマゾン開発といった問題となろうが、確かにこの論説の提言するように、分断や憎悪を煽るSNSを効果的に取り締まるだけでも社会的安定の効果はあろう。