課題(3)の貧困、不平等、食糧不安に対処するためのグローバルなイニシアティブについても、ルーラ氏は積極的のようで、COP27における演説で不平等と貧困と戦うための世界的な努力と国連の改革を訴えた由である。具体的な内容はまだこれからであろうが、国連改革が安保理改革を含むのであれば、日本との協力もあり得るであろう。ルーラが南南協力でリーダーシップを取るのであれば、大変結構なことだ。
課題(4)の新たなグローバル・リスクに対する多国間行動について、論説では、1つの例として大量破壊兵器を規制する規範の強化を挙げるが、これは、ルーラが積極的に取り組むかは疑問であり、現実にも容易ではないであろう。気候変動の緩和や適応のための投資の動員についてもブラジル自身が積極的な役割を果たすことには慎重ではないかと思われる。
BRICSのパワーバランスはどうなる?
課題(1)(3)(4)は相当に外交的資源を投入する必要があるが、懸念されるのは、他の問題への外交力の投入によりそこまで手が回らなくなる可能性である。ルーラは、選挙キャンペーンにおいては、ラテンアメリカにおける連帯や協力の強化、欧米主導の国際機関の改革等を主張していたので、左傾化しているラテンアメリカ諸国との協力関係の強化をより優先させる可能性がある。メルコスールで加盟国の地位が凍結されているベネズエラとの関係や休眠状態にある南米諸国連合(UNASUR)、キューバやニカラグアも参加するラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)の活動にエネルギーを割く可能性もあろう。
また、ブラジルがメンバーである、欧米中心の世界秩序に対抗するBRICSがどのような方向に進むのかも要注意であろう。インドに歯止め役が期待されるが、中国、ロシアは、BRICSを政治的に西側に対抗するグループとして位置付けようとするであろう。また、ルーラは、ロシア、中国との貿易関係もあり、ウクライナ問題についての立場もロシア寄りである。中国、ロシアは、イラン、北朝鮮、ベラルーシ等をメンバーに加えた、独裁国家間の相互扶助のための事実上の「独裁者クラブ」を形成しており、民主主義国のブラジルはこれらと一線を画してもらう必要がある。