さらに、ルラがボルソナロに競り勝ったもう一つの要因は、貧困層に対する選挙キャンペーンでボルソナロよりも評価されたことにある。従って、貧困層などの期待に応えることは必須であり、社会保障や公共投資の増額が必要となるが、そのためには、連立の維持や議会対策で多くのエネルギーを費やすことになる。
また、国営企業の民営化の停止や国営石油企業の活用を図る発想は、左派的体質そのもので、保護主義的政策が強化される可能性すら懸念される。ルラ政権が財政規律をどこまで尊重できるかも懸念される。
米中ともにブラジル新政権に接近か?
他方、ルラ政権の外交についてはこの社説の言う通り期待できる面がある。対米関係では、気候温暖化防止やトランプ・ボルソナロ同盟を共通の敵として民主主義や人権を守る点でも波長が合う。米国としては、ルラとの良好な関係を築くことにより、左傾化するラテンアメリカ諸国がさらに反米化する歯止めとなり、また、ブラジルが中国一辺倒になることを牽制する効果を期待するであろう。
しかし、中国にとっても、米国との対抗上、BRICS(中露など新興5カ国の枠組み)の拡大・強化、南南協力、ラテンアメリカの連帯など、多極化外交を志向するルラを取り込むことは、グローバルな戦略やラテンアメリカへの影響力拡大のための大きなチャンスである。また、中国にとって利益になる資源やデジタル、電気自動車(EV)などの分野への投資も期待できるであろう。
ルラとしては、これにより米中の板挟みとなることに注意を要するが、米中を天秤にかけて双方から好意的な反応を得る有利な立場ともいえる。このような外交的構図は、直面する内政や経済問題の解決に直接寄与するものではないが、これらの問題に取り組む上での良い国際環境を形成することにはなるであろう。