南米で起きていることを報道だけで知るのは容易ではない。中立、客観という視点があいまいで、司法の場でさえも恣意性があり、左右に揺れることがあるからだ。
ある事件を調べたいと思ってジャーナリストや政治学者を探そうとしても、「右、左、どっち側?」とよく聞かれる。分断という言葉をここ10年ほどよく聞くが、南米では半世紀も前から当たり前のように、分断がある。
労働組合出身の左派のリーダー、ルラ・ダシルバが大統領に就任した直後の1月8日、「ブラジルのトランプ」と呼ばれる右派の前大統領、ジャイル・ボルソナロを支持するデモ隊約5000人が、議会、大統領府、最高裁を襲撃した。
これはどういうことなのか。
左右分断が極まった象徴的事件。トランプ派による2022年1月6日の米国議会占拠のまねごと。ボルソナロが敗れた大統領選を認めない右派の怒り。左派のカリスマ、ルラの復活に対する既得権益者やビジネスマンらの恐れ。軍政復活を望む勢力の陰謀。政治不信、アナキズムの果ての出来事。自撮り狙いの乱暴者たちのパフォーマンス。3年におよぶコロナ蔓延がもたらした不安の爆発……。
あらゆる解釈が出ても、その真偽は確認しようがない。解釈の根拠となる事実一つでさえも疑わしいからだ。その疑わしい事実、印象論、イメージをモザイク状に積み上げたのがブラジル政治とも言える。
ブラジル政治の現代史をたどるドキュメンタリー映画「ブラジル 消えゆく民主主義」を見ると、イメージと現実の落差に驚かされる。