2024年12月22日(日)

世界の記述

2021年12月18日

 富裕層を重んじ弱者を攻撃する傍若無人な暴言、好戦的なふるまいから「熱帯のトランプ」と呼ばれてきたブラジルのボルソナロ大統領に陰りがみえてきた。

 ブラジルは新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることができず、米国に次ぐ世界第2位、60万人以上の死者を出している。大統領は当初から「ただの風邪だ」と公の場で、コロナの流行を軽んじ、特段の対策を取らず、ワクチンの導入も大幅に遅らせた。

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 ブラジル上院の特別調査委員会は2021年4月、疫病蔓延に至る大統領の責任を調べ、10月に1288ページの報告書を議会に提出した。報告書によれば、ボルソナロ氏は「死に至る伝染病の蔓延」(懲役10~15年)「予防的衛生措置の違反」(拘留1カ月~1年)「偽医療」(同3カ月~1年)など9つの罪に問われている。

 中でも重いのは国際刑事裁判所のローマ規程(02年施行)にある「人道に対する罪」に問われている点だ。仮に起訴されれば、大統領のコロナ対策の不備が国際法廷で争われることになる。

 報告書はボルソナロ氏によるコロナの責任について、軽視発言からロックダウンやマスク着用の妨害までその証拠を記し、息子ら一族によるフェイクニュース、偽情報の伝搬なども詳述している。ただし、大統領を起訴するには、検事総長と下院議長の承認が必要で、いずれも大統領派のため、訴追の実現は難しい。

 それでも上院の調査とともに大統領の責任の是非が広く国民の間で語られるようになり、4月時点で33%だった支持率は10月には22%にまで落ちた(ブラジルの主要調査機関ダッタフォーリャ)。

 前回18年の大統領選でボルソナロ氏は泡沫候補にもかかわらず、主に右派の若手中間層に後押しされ、決選投票で勝利をつかんだ。汚職容疑で左派の大統領が相次いで逮捕、弾劾されていた時代のことだ。

 だがその後、ボルソナロ氏周辺の汚職やコロナ対策の体たらくで支持者は次第に離れ始め、批判に回った者も少なくない。残るはキリスト教福音派や一部の軍人、農民、トラック運転手といった根っからの支持者だが、不景気の下、その数を増やすのは容易でない。

 来年10月に予定される大統領選では、03年から10年まで務め最後は汚職で追われたルラ・ダ・シルバ元大統領の優勢が早くも伝えられている。実際、筆者の試算では、ブラジルの所得格差をあらわすジニ係数は、ルラ氏在任の8年間はその前の8年間よりも2倍以上の速さで縮まった。つまり貧富の格差が倍の速さで改善された。ルラ政権のあとのジニ係数はほぼ横ばいか、悪化しており、今のルラ人気を支える一つに、格差改善を実感した記憶があるのは否めない。

 焦りを感じたのか、ボルソナロ氏はここに来て給付金を倍増するなど貧困対策に乗り出したが、大統領選までの1年でどこまで支持につなげられるかは不明だ。仮に敗れても、容易に退くとは思えず、トランプ氏と同様、支持者を扇動し一騒ぎ起こすかもしれない。そんな懸念が早くも広がっている。

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InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)
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日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる

いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。


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