2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年1月21日

ルラ政権の本当の評価は

 襲撃そのものには反対であっても、国民の本音はどうだろう。ルラを信頼するのか。得票率でみれば支持は有権者の半数にすぎない。残り半数のどれほどがルラの冤罪を信じているのか。いまだに、ルラの有罪、そしてルセフの弾劾を既成事実と考える者が相当いるのではないか。

 ルラの政策はさほど左派寄りとは言えない。第一次政権時、右派が懸念する富裕層抑圧をあえてしなかった。その代わり、ボルサ・ファミリア(家族手当)など貧困救済策に力を入れた。映画では救われた庶民の言葉が散りばめられるが、右派から見れば「人気取りのバラマキ」にすぎない。

 それでもルラの策はそれなりの成果を上げた。筆者がジニ係数から試算したところ、貧富の格差を示すこの係数の減り方、つまり格差の縮まり方は、ルラ就任前の1995年から2003年の8年間で4.3%にすぎなかったが、ルラ政権の03年から11年の8年では10.2%にもなった。つまり格差が縮まるスピードがルラの時代は2.4倍も早まった。ルラ以降、格差は縮まらず横ばいか、むしろ悪化している。

 ジニ係数には景気や消費、インフレなどさまざまな要素が絡み、貧困救済策がどこまで効いたかはわからないが、結果を見る限りルラ政権時に格差は改善した。

目の前の映像をどう見るべきか

 映画はそんな第一次ルラ政権の盛衰を描くが、ブラジル国民はこの映像をどう見るのか。作り手のペトラ・コスタ監督は明らかな左派だ。両親はルセフと同様、1984年までの軍政時代、左翼ゲリラの武力闘争に加わっている。当然ながらルラを、ルセフを支持し、彼らを追い込む判事や議員たち、大衆を糾弾している。この国に民主主義はないのかと。

 左派にとっては紛れもない事実だが、ルラたちを嫌う右派には、こんなものはフェイクだ、プロパガンダだと言う者がいるだろう。そもそも見もしない。

 それでも、映像には重みがある。アパート供与の不正疑惑をめぐる審議でモロ判事と向き合ったルラが詰め寄る場面がある。

 「あなたは責任を感じていないのか」「検事局の審問ならもっとしっかりやれ。(証拠となる)土地の権利証書を提示すべきだろう」「私は何の罪を犯したんだ」

 ルラ支持者でなくとも、モロ判事側の論理のなさ、曖昧さは明らかだが、これもボルソナロ派が見れば「フェイク映像」に映るのかもしれない。

 いまブラジルで何が起きているのか。事実一つをめぐっても人々が二分してしまう世界で、映像に何ができるのか。メディアはどうあるべきか。見る者に問いをぶつけ、それぞれの視点を計る試金石のような作品と言える。

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