米テスラの新工場の建設場所についてメキシコ大統領が介入していることについて、米ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのオグラディが、2月26日付の論説‘Tesla Meets the Rule of AMLO’で、介入はメキシコの投資環境を害し、投資誘致の重要な機会を大きく損なっている、と批判している。主要点は次の通り。
イーロン・マスクは、メキシコのテスラの新工場建設を国境のヌエボレオン州で検討していると言われているが、ロペスオブラドール大統領は2月24日、水源への影響を理由にテスラの工場を同州のモンテレイ郊外に建設することを拒否する旨述べた。
メキシコは、投資家の中国離れに伴い、高付加価値ハイテク製造資本が熱望する投資先となるはずだったが、そうはなっていない。起業家たちは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)のパートナーであるメキシコでの投資機会を探っているが、法の支配を尊重しない独裁的なロペスオブラドールのルールによって物事が進められており、投資に際して大きな不確実性があるためその機会が無駄になろうとしている。
メキシコは、付加価値の高い製造業の「ニアショアリング(生産地と消費地を近づけること)」において、地理的、人口動態的、政治的な比較優位性を活用できていないが、FDI(海外直接投資)の可能性はもっと高い。
メキシコ・ビジネス評議会のアントニオ・デル・バレ会長によれば、適切な政策があれば、メキシコは現在の2倍の700億ドルのFDIを誘致することが可能で、その実現には、エネルギーとインフラの整備に加え、「国全体にわたる法の支配と変更されることのない確実性をもたらす明確なルール」が必要だ。
メキシコはUSMCAに署名することで、石油、ガス、電力市場を国内外の競争に開放することに同意した。 しかし、ロペスオブラドールは、貿易協定に反して、国有の巨大石油企業ペメックスとメキシコ電力公社(CFE)の独占力を回復させようとしている。
米通商代表部(USTR)は昨年7月、USMCAに基づき「紛争解決協議」の要請を行い、「メキシコの不作為、遅延、拒否そして民間企業の事業取り消し」を取り上げ、カナダも米国の呼びかけに応じ 協議に参加した。
数カ月の膠着状態を経て、米国は現在、仲裁パネルに審理を依頼する権利を有しているが、バイデン政権は逡巡している。更に悪いことに、ロペスオブラドールはメキシコへのグリーンエネルギー補助金を検討中だとしている。
外国政府からの圧力を最小限に抑えるため、ロペスオブラドールは企業と個別に交渉している。2020年、彼は米エネルギー大手センプラ・インフラストラクチャーに対し、同社が彼の要求を満たせば液化天然ガスの輸出許可を出すと言った。同年、酒類販売大手のコンステレーション・ブランズに14億ドル相当のメヒカリ新醸造所を断念させた。
投資家に対する恣意的な扱いは、製造業のための安価で豊富なエネルギーを生み出すメキシコの能力を損ね、また、メキシコの投資先としてのイメージも損なう。ロペスオブラドールの強権的な戦術は時に有効だが、メキシコにとっての機会損失は、決して誇張とは言えない。
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オグラディは上記論説で、ロペスオブラドール大統領が、テスラが検討していたメキシコ北部のヌエボレオン州での電気自動車(EV)工場建設につき、同地域の水不足を理由に反対していることについて批判している。
テスラ側の対応が注目されていたが、報道によれば、2月25日および27日の2回に渡り、ロペスオブラドールがイーロン・マスクと直接電話で協議したと伝えられており、その後、2月28日、ロペスオブラドールは、工場は予定通りヌエボレオン州に建設されると発表した。テスラは、現地の水不足問題を解決するための一連の取り組みを行うようである。