中国は“大いなる統一”を目指すと必ず失敗する
南からの変革は、近年になっても続く。
1978年には社会主義・中国の深圳(広東省)に初の経済特区が設置され、92年には鄧小平が上海や広州などを巡った「南巡講話」で市場経済路線をいっそう加速させた。
「でも、最近の、きわめて権威主義的な習近平体制の中国を見ていると、華南のフロンティアスピリットはどうなってしまったのか、と心配になりますよね。一時は盛り上がった香港の民主化デモも、今はすっかり下火になってしまいましたし」
香港では2020年に国家安全維持法が施行され、公約の「1国2制度」は事実上消滅した。
「私は2019年のデモの時に香港にいました。
菊池さんによれば、49年に台湾に逃れた蒋介石政権は独裁的で残虐だったが、憲法そのものは民主的だった。孫文の抱いていた思想を濃厚に反映したものだったからだ。
「私が思うに、中国は“大いなる統一”を目指すと必ず失敗します」
菊池さんは力を込めて言った。
「“大いなる統一”は秦の始皇帝以来の中央集権政府の悲願です。しかし、本来多様な社会を、権力で強引に管理しようとするのでうまく行かない。本当は、各地域に権限移譲して任せればいいんですよね」
菊池さんは一時の香港や近年の台湾以外に、「第3の中国」と呼ばれるシンガポールを挙げ、「中央政府の手が届かない遠方にあったために成功できた良い例」と語った。
「では、最近の習近平政権を見て、“中国はダメ”と決めつけないほうがいい?」
「少なくとも“中国は一枚岩”とか“中国は敵”と簡単に信じ込まないで下さい。孫文の思想が歳月を経て蘇ったように、天安門事件で世界各地に散った人々の思いが、いずれ蘇る可能性もなくはない。そういう国なんです」
3期目に突入し盤石に見える隣国の政権だが、過去何度もそうだったように、もし政権交代が起これば状況は一変するのかもしれない。