2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2023年3月30日

中国は“大いなる統一”を目指すと必ず失敗する

 南からの変革は、近年になっても続く。

 1978年には社会主義・中国の深圳(広東省)に初の経済特区が設置され、92年には鄧小平が上海や広州などを巡った「南巡講話」で市場経済路線をいっそう加速させた。

「でも、最近の、きわめて権威主義的な習近平体制の中国を見ていると、華南のフロンティアスピリットはどうなってしまったのか、と心配になりますよね。一時は盛り上がった香港の民主化デモも、今はすっかり下火になってしまいましたし」

 香港では2020年に国家安全維持法が施行され、公約の「1国2制度」は事実上消滅した。

「私は2019年のデモの時に香港にいました。あのデモを2014年に台湾、香港で起きたひまわり、雨傘運動、さらには1989年の天安門事件につながる中国民主化の歴史のなかに位置づけるなら、その源流は1947年制定の中華民国憲法までさかのぼることができます」

 菊池さんによれば、49年に台湾に逃れた蒋介石政権は独裁的で残虐だったが、憲法そのものは民主的だった。孫文の抱いていた思想を濃厚に反映したものだったからだ。

「私が思うに、中国は“大いなる統一”を目指すと必ず失敗します」

 菊池さんは力を込めて言った。

「“大いなる統一”は秦の始皇帝以来の中央集権政府の悲願です。しかし、本来多様な社会を、権力で強引に管理しようとするのでうまく行かない。本当は、各地域に権限移譲して任せればいいんですよね」

 菊池さんは一時の香港や近年の台湾以外に、「第3の中国」と呼ばれるシンガポールを挙げ、「中央政府の手が届かない遠方にあったために成功できた良い例」と語った。

「では、最近の習近平政権を見て、“中国はダメ”と決めつけないほうがいい?」

「少なくとも“中国は一枚岩”とか“中国は敵”と簡単に信じ込まないで下さい。孫文の思想が歳月を経て蘇ったように、天安門事件で世界各地に散った人々の思いが、いずれ蘇る可能性もなくはない。そういう国なんです」

 3期目に突入し盤石に見える隣国の政権だが、過去何度もそうだったように、もし政権交代が起これば状況は一変するのかもしれない。

   
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