
ナタリー・シャーマン・ビジネス担当記者、米ニューヨーク
米大手11銀行は16日、破綻の恐れがあるとみられていた米中堅地方銀行ファースト・リパブリック・バンクに合同で300億ドル(約4兆円)を預金した。
アメリカでは銀行の破綻が相次いでおり、当局は銀行システムへの懸念を和らげようと努めている。銀行に対する不安は世界各地で広がっており、金融危機への恐れが高まっている。
サンフランシスコに本社を置くファースト・リパブリックは先週、株価が70%近く急落していた。投資家らは同行について、預金引き揚げの急増に見舞われる次の銀行ではないかと心配していた。
米当局は今回の大手行の動きを「強く歓迎する」とし、「銀行システムの強さを示す」ものだと評価した。
ファースト・リパブリックへの支援は、JPモルガンやシティグループが中心となった。大手行側は、銀行システムには十分な現金があり、大きな利益を上げていると説明。「最近の出来事はこの状況を変えるものではない」とし、「米大手銀行の行動は、この国の銀行システムに対する自信を反映している」とした。
今回の支援策で金融市場は上向き、ファースト・リパブリックの株価は一時20%以上急騰。取引停止となった。
しかし、時間外取引では再び売りが優勢となり、懸念が消えていないことを示した。
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伝染するリスク
アメリカでは先週、国内16位の金融機関であるシリコンヴァレー・バンク(SVB)が破綻。銀行業界の問題が表面化した。SVBの破綻は2008年以降で同国最大規模だった。
さらに2日後には、ニューヨーク州のシグネチャー・バンクも破綻した。
当局は預金の流出を防ぐため、通常の限度額を超えた預金保証に踏み切った。しかし、金融市場は依然として不安定なままだ。
米中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、銀行への緊急融資が15日時点で3180億ドルに上っており、1週間前の150億ドルから急増したと発表。銀行システムに負荷がかかっていることをうかがわせた。
この融資には、SVBの破綻後に設立された基金を通じた約120億ドルも含まれている。
英調査会社キャピタル・エコノミクスのポール・アシュワース北米チーフエコノミストは、「FRBの緊急融資の急増は、銀行システムの危機が非常に深刻で、実体経済に大きな波及効果をもたらすことを示している」と述べた。
米財務長官「銀行全体は健全」
米財務省のジャネット・イエレン長官は16日の米議会で、「多くの銀行の経営破綻を引き起こしかねない深刻な伝染リスクがあると感じているが、銀行システム全体は安全で健全だと判断している」と述べた。
一方、欧州中央銀行(ECB)のルイス・デギンドス副総裁は、ヨーロッパの銀行業界は対応力に優れているとし、欧州企業が受ける「米金融機関の影響は限定的」だと述べた。
ECBはこの日、金利を2.5%から3%にさらに引き上げると発表。市場の混乱に影響を与えるかもしれないとの懸念が出ていたが、予定どおりに実施した。
銀行への支援
世界中の中央銀行は昨年、物価上昇(インフレ)のペースを抑えようと、政策金利を大幅に引き上げた。
これにより、金利が低かった時に銀行が買った大量の債券の価値が低下。SVB破綻の一因となった。他の銀行の状況についても疑問が広がった。
スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は15日、ぜい弱性の懸念が出ていたスイス金融大手クレディ・スイスに対し、最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)の緊急資金を融通すると発表した。
クレディ・スイスの株価は16日、前日の大幅下落から15%以上回復。欧州の主要株価指数も上昇した。
英中央銀行イングランド銀行で副総裁を務めたサー・ジョン・ギーヴは、各国の中央銀行が今回のような問題は自国内で収束させられるとの「メッセージ」を送っていると、BBCに話した。
サー・ジョンはまた、クレディ・スイスのケースについて、SNBの行動によって危機の拡大は食い止められるだろうと分析。
「クレディ・スイスが今後どうなるかは分からないが、今のところは大丈夫であり、SNBもクレディ・スイスが立て直しを図るのに十分なだけ、存立を保証するものと思われる」と付け加えた。
1856年創業のクレディ・スイスは近年、マネーロンダリング(資金洗浄)で有罪判決を受けるなど、相次ぐ不祥事に直面している。
2021年と2022年には、2008年の金融危機以来で最悪の損失を計上。2024年まで黒字になる見込みはないと警告している。顧客らはここ数カ月で多額の預金を引き揚げている。
米ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は、クレディ・スイスでの動きを米当局も注視しているが、同行の問題はアメリカでの出来事とは「明らかに別」だと発言。
「クレディ・スイスの問題は現在の(アメリカの)経済状況とは関係ない」と述べた。