2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2013年7月25日

2012年4月に、南シナ海スカロボー礁で、フィリピン海軍の船と中国の海洋監視船がにらみ合いになった際の、フィリピン外務省における会見の様子(提供:AP/アフロ)

 フィリピンと中国との関係悪化は、スカボロー礁を巡る中国の海洋監視艦とフィリピン沿岸警備隊(PCG)の船舶のにらみ合いで最悪の状況に落ち込んだ。12年4月10日に始まったにらみ合いは、ほぼ3カ月経ってようやく終わった。スカボロー礁は、最も近いフィリピン領土から西に220キロ離れた場所にあり、国際的な海図では、スペインの植民地時代以降、歴代フィリピン政府の施政下にあることが認められてきた。

 しかし、中国の地図上では、九段線で囲まれた中国領の中に入っている。九段線の意味するところは依然はっきりしないが、南シナ海問題に関する中国の公式発言は、この線に囲まれたすべての海域と陸地に中国の主権が及ぶことを暗示している。ITLOSに対するフィリピンの訴えが問題にしているのは、この定義と中国の領有権主張の根拠だ。

 フィリピン政府は、調停は「国際法に則った平和的かつ永続的な形の紛争解決だ」と主張し、自国の行動を擁護している。これに対し、中国は、第三者が関与する取り組みを拒み、領有権を主張する国同士が一対一で交渉を行うべきだと訴えている。

 中国の純然たる大きさ、特に同国が誇る海軍、海洋能力の優位性から、フィリピンは2国間協議では不利な立場になることを認識している。そこでフィリピンは法の支配と法の支配を象徴する国際機関に訴えることで、国際世論にアピールし、中国の優位性に対抗しようとしたわけだ。(編集部注=仲裁人は、両国政府と協議し、審理の進め方を決める。そのうえで、仲裁人は国際法に基づいてどちらの主張が妥当かを判断する。一方の当事国が申し立てれば、相手国が拒否しても仲裁手続きは進むため、何らかの裁定が出ることとなる。しかし、裁定には強制力がなく、実効性に乏しい部分もある)

海洋警備能力の強化を図るフィリピン

 より戦略的なレベルでは、フィリピンは海洋警備能力の強化を表明しており、イタリアや韓国を含め、多様な調達先からの警備艇購入を増やそうとしている。だが、この取り組みが自国領海に関するフィリピンの目先の懸念に与えるインパクトは限られている。警備艇などの購入予算は限られているからだ。

 ベニグノ・アキノ3世大統領は既に、フィリピン軍(AFP)の近代化に18億2000万米ドル(約1800億円)の予算を割り当てることを約束している。この金額は、中国が13年の国防予算として正式発表した額の1割強にすぎない。


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