2024年12月4日(水)

World Energy Watch

2023年4月26日

脱原発は日本の物価にも影響を与える

 2022年のドイツの発電量4930億キロワット時(kWh)のうち原子力発電は6.7%、328億kWhを占めていた。今年1月から3月の発電量でも4.4%のシェアを持っていた(図-1)。

 脱原発後、この発電量を賄うためには、短期的に褐炭、石炭、天然ガス火力の利用増を進めるしかない。仮に、石炭火力を利用するならば年間1000万トン以上の石炭、天然ガス火力でのLNGの利用では年間440万トンが追加で必要になる。

 ドイツにとり幸いなことは、暖冬と節電努力があり今年1月から3月までの電力需要が前年同期比約7%低下していることだ。原子力発電量分の節電ができていることになる。さらに幸いなことに風況にも恵まれ、風力発電量も増加している。

 しかし、日照、風況次第では今後石炭とLNGの追加輸入が必要となる。22年の欧州連合(EU)と英国を合わせたLNG輸入数量は、前年比約68%増の約1億2700万トン。日本の輸入量7200万トンを大きく上回っている。

 国際エネルギー機関の資料に基づくと、欧州の輸入価格はトン当たり約1600ドル(21.6万円)。日本の22年のLNG輸入価格11万8000円のほぼ2倍になっていると推測される。

 ドイツが追加で高値のLNGを購入しても、既に電気・ガス料金には上限価格が設定されているので家庭と産業が直接影響を受けることはないが、ドイツ政府の財政負担は増える。

 なによりも、ドイツがLNGあるいは石炭を追加で購入することにより需給が引き締まり、日本を含めLNG、石炭を輸入している国は、価格上昇に直面することになる。エネルギー価格上昇は物価の値上がりを引き起こす。ドイツの脱原発により、エネルギー輸入国の物価が上がる。

ドイツの脱原発を支えたロシアの天然ガス

 ドイツの脱原発の歴史は長い。ドイツで原子力発電の商業運転が初めて開始された1969年の直後から、反原発運動が開始された。75年には2万8000人のデモ隊がヴィール原発の建設現場を占拠する事件を引き起こした。

 79年の米国スリーマイル島原発の事故後には、ボンとハノーファーで20万人のデモが行われ、80年には脱原発を党是とする緑の党が結成された。86年に旧ソ連チェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故が発生し、89年を以てドイツでは原発の新設はなくなった。

 98年SPDと緑の党の連立政権が成立し、2年後に電力事業者と原発の運転期間を32年に制限し、2022年に脱原発を行うことで合意した。合意は02年に法となった。

 09年に成立したキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟 (CSU)、自由民主党 (FDP)の連立政権は、原発の運転期間を最大14年間延長する脱・脱原発を決定する。

 しかし、11年の福島第一原発事故を受け、メルケル政権は8基を閉鎖し、残り9基を22年末までに段階的に閉鎖することを決定した。エネルギー危機により最後の3基の運転は今年4月15日まで延長された。


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