昨年は渇水の影響などによりフランスの原発発電量が減少したため、ドイツからの純輸出になっているが、今までドイツに対する電力輸出量が最も大きくドイツのエネルギー転換を助けている国は、フランスだ。昨年を除きフランスからは常に輸出超過になっている(図-5)。
図-6の通り、今年1月にドイツは周辺11カ国と電力の輸出入を行っている。電力需要地南部と北西部に位置する3基の原発の4月15日の停止により、電力の輸出入は今後さらに活発にならざるを得ない。ドイツは、原発が7割弱の電力を供給するフランス、3割強のスウェーデンからの電気も当然使うことになる。
ドイツが他国の原発を当てにするのは電力供給に留まらない。
原発が作る水素も使うドイツ
ロシアのウクライナ侵攻前からドイツは水素の導入に熱心な国の一つだったが、エネルギー危機以降さらに拍車がかかっている。
水素は、天然ガスあるいは石炭から製造されるが、製造時にCO2が排出される。天然ガスでは水素1トンに対し約10トンのCO2が排出され、石炭利用ではさらに大量のCO2が排出される。世界の水素製造時に排出されるCO2は年間約7億トン。ドイツの排出量を上回っている。
利用時にCO2を排出しなくも、製造時に排出されるのでは脱炭素にはならない。このため、化石燃料から製造する際には製造時に排出されるCO2を捕捉、貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)装置を設置するか、あるいは原子力、再エネからの電気により水を電気分解(電解)し製造することが必要になる。
脱原発のドイツが利用できるのは再エネの電気による電解だが、国土面積の制限からドイツは電解に必要な再エネ設備を設置できない。このため、ドイツは水素を輸入せざるを得ず、多くの国と水素供給について交渉を行っている。
豪州、カナダとは水素輸入の覚書をそれぞれ締結済みだ。サウジアラビアから水素をアンモニアの形で輸入する設備の建設をハンブルクで進めている。
今年3月にはノルウェーと水素製造とパイプライン敷設について共同調査の覚書を締結し、デンマークとも共同事業についての覚書を締結している。
フランスの原発の電気による電解で製造された水素についても、パイプライン経由での輸入について合意したと報道されている。再エネの電気による水素はグリーン水素と呼ばれるが、フランスの原子力による水素はクリーン水素だ。
自国は脱原発したが、電気も水素もやはり他国の原発に依存せざるを得ない現実がある。そうは言っても、影響を受けるエネルギー輸入国には迷惑な脱原発だ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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