2024年12月2日(月)

World Energy Watch

2023年4月26日

 国民の半数以上が原発の継続利用を望んだにもかかわらず、ドイツは最後の3基の原発を4月15日送電網から切り離した。

 原発の利用を多くの国民が望んだ背景には、ロシアが引き起こしたエネルギー危機による、都市ガス、電気料金の高騰と厳しいエネルギー供給事情がある。8割のドイツ国民がこの冬節電、節ガスを行った。

(Wlad74/gettyimages)

 連邦政府は、電気料金に含まれていた再生可能エネルギー支援のための賦課金を廃止し、政府による負担に切り替えた。さらに電気、ガス料金に使用量の8割を対象に上限価格を設定した。それでも家庭と中小企業用電気料金の上限価格は1キロワット時当たり40ユーロセント(58円)。日本の約2倍だ。

 脱原発に踏み切った連立政権の支持率は、落ち込み始めた。連立政権の中心社会民主党(SPD)の支持率は、ロシアの侵攻開始時の25%から20%まで下がった。

 脱原発を党是として設立された緑の党は、経済・気候変動相、外務相、環境相と目立つ立ち位置の閣僚を握っていたためか、ロシアの侵攻後SPDに代わり支持率を伸ばした。

 しかし、昨夏に23%に達した支持率も、脱原発を行った今年4月中旬には16%まで落ちた。躍進しているのは右派とされる「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。4月の支持率は緑の党に迫る15%まで上昇している。

真の脱原発は難しいドイツの現実

 ドイツは、当面石炭の利用と米国産を中心とする液化天然ガス(LNG)の調達増によりエネルギー危機を乗り切らざるを得ないが、緑の党出身の閣僚が脱ロシア産化石燃料と脱原発のため力をいれているのは水素だ。

 燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、高炉製鉄、化学など電化が難しい産業、あるいは航空機、外航船舶、トラックなどの燃料として必須とされている。需要側での設備改修が必要だし製造コストの問題もあり本格的な利用には未だ時間が掛かるが、脱炭素を目指す緑の党が国民に「やっている感」を示すには絶好の素材だ。

 ドイツは、脱ロシア産化石燃料、脱原発後のエネルギーとして水素の確保に早々と乗り出している。よく見れば、その水素の中には原発の電気を利用した水の電気分解により製造されるものも含まれている。やはり真の意味の脱原発は不可能のようだ。


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