2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2009年3月27日

 「設備投資の努力をせずに安易に他社の電波を借りるのはMVNO制度の悪用ではないのか」。こんな声があがっていますが、今のところ、監督官庁である総務省が裁定に乗り出す気配はありません。

 ソフトバンクはここ数年、家族間無料や割引サービス拡充による加入者数の純増や、データ通信量の増加で電波事情が逼迫しています。イー・モバイルの回線を借りることで、同社は従来のラインアップにはなかった使い放題のデータ通信サービスを拡充できたわけで、「国民の共有財産である電波を有効利用したのだから不当ではない」という孫正義・ソフトバンク社長兼CEOの主張は一理あるようにもみえます。

狙いはドコモからの回線借り?

 しかし、免許事業者同士のMVNOは後戻りできない麻薬的効果を持っています。安易に電波を借りることができれば、自らがインフラ設備投資をするインセンティブが失われるからです。「ソフトバンクやイー・モバイルの真の狙いは、最大手NTTドコモから借りることだ」と前出のコンサルタントは指摘します。

 実際、ドコモ幹部は昨年末、ソフトバンクなどから打診を受けたと打ち明けています。

 実は、こうした「麻薬」を許した背景には、総務省の通信政策の誤謬があります。免許事業者間MVNOという「パンドラの箱」を開けたのは、ほかならぬ総務省だからです。

 発端は2年前にさかのぼります。総務省は2007年12月、3G携帯に次ぐ無線通信技術である次世代高速無線の免許をKDDI系のUQコミュニケーションズと、PHSのウィルコムに与えました。

 UQは米インテルの技術をもとにしたWiMAXという方式で、ウィルコムは国産技術の次世代PHS方式で事業計画をたてましたが、最初につまづいたのがウィルコムでした。ウィルコムはKDDIから身売りされ、米投資ファンド・カーライルの傘下となりましたが、昨年秋にカーライルがウィルコム株の転売を画策したものの頓挫。ウィルコム自身の加入者数減少もあって、次世代PHSの整備は遅れが懸念されています。

 PHSは旧郵政省や旧電電公社が育て上げた国産技術。その灯を消してはならぬと、総務省が動き、ドコモに対し、MVNOでウィルコムに周波数提供するよう促しました。通信速度が陳腐化し、3Gへの流出に歯止めがかからない現行PHSが、次世代PHSに移行する橋渡しの期間、ドコモの3G回線を借用するというシナリオです。実際に3月9日から提供開始となりました(参考:ウィルコムのプレスリリース)。

 しかし、それを知ったソフトバンクやイー・モバイルが、ドコモに向かったのはすでに述べたとおり。ドコモ幹部は「PHSは業態が別なのでMVNOは問題ないが、同じ3Gの免許をもつ御社に貸すのは勘弁していただきたいと断った」と認めます。ドコモや総務省がそれを突っぱねたのは、3G事業者とPHSは業種が違うという論理です。

 PHSは「異業種」として3GへのMVNOを認める――。ただそのロジックに無理があるのは言うまでもありません。この無理なロジックが「ソフトバンクとイー・モバイルは互いに協業することで3G事業者同士のMVNOを既成事実化しドコモの門戸をこじ開けようとしている」(同コンサルタント)という戦略を生み出したわけです。


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