「本書で考えさせられたのは、外国人が店を開けたり集住したり寺院を建てたりする場合、必ず地元と日本人との間に入って橋渡しする人がいること。外国人側・日本人側双方にいて、対立や衝突を未然に防いでいる?」
例えば茨城県・常総市の雑居ビルにはタイやフィリピン、スリランカのバー、料理店がひしめいているが、そこの70代の日本人オーナーは30年間も太っ腹に彼らの面倒を見続けているし、その中のスリランカ人の1人は、近くのビルを名誉領事館にしてオープンさせ、発生する問題解決のために東奔西走している。
「ええ、行く先々に居ますね。取材していて、そういう出会いに随分救われました。日本人も外国人も同じ人間、捨てたもんじゃない、と。でも、行政が力不足ですね。トラブルを民間に丸投げして自らは動かない。名前は国際課とか多文化共生課とか立派なんですけど(笑)」
難民条約に批准している日本
日本社会への外国人受け入れに関しては幾つもの側面があるが、象徴的なのは難民だ。
日本の難民認定基準は厳しい。難民申請した人に対し難民と認定した難民認定率は2021年で0・7%。他の先進国の20~60%と比較して極端に低いと言える。
その理由は、難民を「自国で迫害を受ける恐れのある人」と狭く定義していることもあるが、難民申請者の中に出稼ぎ目的の偽装難民が数多く含まれている事実もある。
北関東の外国人労働者の中にも、難民申請中の偽装難民が少なからずいる。
「日本は難民条約を批准しています。そうであれば、現状のような実質的門前払いでなく、内乱や貧困からの避難者も認定対象とすべきです。これが一つ。もう一つは、偽装難民が大手を振って不法就労しているせいで本当の難民が迷惑をこうむっているのは確かなので、送り出し国側と日本側の怪しげなブローカーたちの摘発と管理、これをぜひ厳格にやってほしいと思います」
室橋さんは、日本人と外国人がうまくやっていくための最初のルールとして「新参者の方からの挨拶」を挙げている。茨城県・笠間市のタイ寺院建設の際、橋渡し役の日本人男性がまず近所に挨拶回りをして「無料のタイ料理をぜひご一緒に」と勧めたように。
「どの国でもそうですが、異文化の人が自分の生活圏内に突然入ってくると、必ず拒否反応が生じます。東京きっての多国籍な町、新大久保ですらそうです。まして、島国・日本の地方区域となれば、新参者のほうから“地域に溶け込もう”という意志を、積極的に言葉と態度で示さなければなりません」
これからも外国人は日本に来てくれるのか?
世界一の速度で少子高齢化が進行する日本。厚労省の推計では、2070年に人口8700万人のうち1割が外国人になる。外国人の受け入れ方は、日本の喫緊の課題だ。
しかし室橋さんは、将来に関しては別の角度から外国人問題を懸念する。
「はたしてその時に、外国人が日本に来てくれますか? そちらの方が心配です」
経済成長著しいタイやマレーシアは現状ですら難しい。中国、ベトナムも日本の停滞が続けば来日はしない。頼みのインドネシアは?
「現在、国道354号線沿いにアジア中心の外国人が集住しているのは、まだ多少の経済格差があるからです。日本にとって彼らはあくまで低賃金労働者。この上から目線がいつまで可能なのか。本当に外国人との共生を考えるのなら、入管制度の改革を含めた多方面での見直しが、早急に必要だと思います」