2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月30日

 米ワシントン・ポスト紙コラムニストのザカリアが4月28日付け論説‘India’s economy is surging thanks to these three revolutions’で、インド経済は3つの革命により急成長を遂げており、「驚異的インド」が実現するかもしれないが、貧困問題解決、女性の包摂、宗教への寛容の実現も重要だ、と指摘している。要旨は次の通り。

(NatanaelGinting/gettyimages)

 2006年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は「驚異的インド」に溢れ、9%超の成長で直ぐ中国を抜くと予言されていた。しかし、実際はそうならず数年後に成長は減速し経済改革は停滞。参入外国企業は落胆し一部は完全撤退。中国経済は今やインドの約55倍だ。

 しかし、インドは発展を続け、約20年間、中国に次ぐ第2位の経済成長を実現。そして、ここ数年「革命」が成長を加速化している。

 第一の革命は、政府の「アーダール」政策。世界一精巧な個人番号システムで、全てのインド人は12桁の個人番号を持ち指紋または眼球虹彩で認証される。99.9%の成人はデジタルIDで特定可能で、銀行口座を数分で開設でき、政府は直接個人に支払い、収入申告回避や汚職の可能性は減少。システムは全国民に無料で解放されており、政府が運営している。西側ではグーグルなど巨大民間企業が個人データ共有で儲けている。起業家はアーダールでビジネス立上げさえできる。このシステムでの送金、借り入れには西側のような手数料は必要ない。

 第二は「ジオ」革命。インド最大で意欲的ビジネス指導者のアンバーニは、自社通信サービスのジオによる安価な電話とデータパッケージの提供で、国民のほとんどがインターネットを使うようになることに460億ドルを賭け成功。今や7億人がインターネットを使用している。インドは一人当たりのモバイル・データ使用量で2015年には世界122位だったが、昨年初めて米中の使用量合計を超えた。

 第三は「インフラ」革命。2014年度に比べインフラへの政府投資は5倍に、国営高速道路、港湾能力、空港数は約2倍に増加。ムンバイでは遂に広範な橋梁、道路、地下鉄網などの建設が始まり、インドの全主要経済センターが真に連結され得る。

 これらの革命で今度はインドが真に変革するかもしれないが、革命は多くの経済的・社会的・政治的貧困者救済という最大課題解決に資するべきだ。2019年時点で国民の45%の6億人以上が最貧者だ。

 家庭外労働に種々の制約が残る女性問題は、より大きな包摂性への挑戦だ。インドの女性雇用参画割合は低く、更に過去20年間で一層低下しサウジより低い。雇用参画の男女格差是正により今後30年で国内総生産(GDP)は30%以上増加する、との試算もある。迫害下の約2億人のイスラム教徒の包摂は、宗教間の緊張緩和にも繋がり得る。これは、開放的で多元的民主主義で、多元主義と寛容を是とするヒンズー教徒が多数のインドの成り立ちにも沿ったものだ。


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