2024年12月6日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月17日

 4月20日付けのワシントン・ポスト紙社説‘India takes a distressing retreat from democracy’が、モディ政権の下で進行中のインドの歴史と政治に関する教科書の書き換えの問題を描写し、インドの民主主義の後退を批判している。要旨は次の通り。

 モディ首相はヒンズー教主導の多数派主義を、学校のカリキュラムと教科書を含めインドに押し付けようとしている。1000人近いムスリムが殺害された2002年のグジャラート州の事件に関し「宗教的感情を政治目的で利用することの危険をわれわれに警告した。それは民主的な政治に対する脅威となる」などと指摘した2ページが切り落とされ、インドの2億人のムスリムの長い歴史におけるその他の出来事も削除された。

(Ashkapoorphoto/gettyimages)

 インドの生徒達と民主主義が置かれた状況は悪化している。

 インドの国立教育研究訓練評議会(NCERT)は昨年来カリキュラムの改定に取り組んで来た。削除は大幅である。インドの歴史的なイスラムの統治者についての章は縮小されるか削除される。教科書はムガル帝国(16~19世紀にインドを支配したイスラム王朝)について掘り下げることはしないであろう。インドの名高い民主主義の成立についての章も削除された。

 教科書書き換えは、最大の人口を擁する民主主義国として落胆させる事態である。インドのムスリムの物語を教科書から消し去ることは、ロシアがスターリンの弾圧の歴史を覆い隠し、中国が天安門事件への言及を抑圧するのと同様、法外なことである。更に、子供達を洗脳することは、歪められた歴史が何世代もの間続くことを確かなものとする。

 他にも民主主義の後退の不穏な兆候がある。最近、英BBCはグジャラート州の暴力事件におけるモディの役割に焦点を当てたドキュメンタリー「India:The Modi Question」を放映したが、モディの政府はこれを阻止すべく、税務当局がニューデリーとムンバイのBBCの事務所を急襲した。これは、中国やロシアで通常用いられるメディアを沈黙させるための威嚇の手法である。

 中国との関係で、インドの役割は米国にとって極めて重要な関心事である。バイデン政権はモディの民主主義からの遺憾な後退について声高に語らないことを選択している。バイデン政権は彼の後戻りについても声を大にすべきである。

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 この社説の主題は、ナレンドラ・モディと彼の政党インド人民党(BJP)によるインドの歴史と政治に関する教科書の書き換えである。教科書の書き換えは、過激なヒンズー・ナショナリズムのビジョンに基づき、事実を蔑み、インドを純粋にヒンズーの土地として描こうとする試みのようである。


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