2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月30日

 インドは成長速度だけでなく価値の質でも尊敬される国になる潜在力を持っている。それこそが真の「驚異的インド」だ。

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 上記は、ザカリアがインドを訪問した際の現地取材に基づくもので、論点がしっかりと整理された良い論説である。これを読むと、遠くない将来、米中に加えてインドが超大国の仲間入りをして、米中印の三超大国〝G3〟が世界の方向性を決める時代になり得るように思われる。

 もちろん、インドが超大国になれるかどうかについては疑問も多い。その最大の理由の一つは、人口増を吸収するだけの経済発展・雇用増加が見えてこない、換言すれば、人口増があまりに急速すぎるということである。

 背景には、この論説も指摘するように、インドは過去何度となく高成長の期待を裏切ってきたことがある。インフラの絶対的不足に加え、中央政府に比べ地方政府の独立性と権限が強く地方毎に制度が異なる複雑さや「レッドテープ(官僚主義)」の多さ、更には制度変更を巡る不透明性などについては、各種努力にもかかわらず十分な改革が進まず、突っ込みどころ満載の状況が投資への意欲を萎えさせるという構図だ。

 しかし、ザカリアが上記の論説で描写している通り、状況は確実かつ急速に改善しているように見える。「ジオ」によるインターネット使用の普及を下支えに、「アーダール」という個人認証システムの確立が大国の運命である地理的制約を克服し、国内に散在する小規模ビジネスへの資金供給を容易にする。

 また、政府保有のアーダールの使用は無料でビジネス・コストが極小化される。そして、支援対象であるビジネスの「大きさ」ではなく「数」で大きな雇用創設を目指す。これらは極めてインド特有の実験だが、インドの現状に合ったものでもあるだろう。

女性とイスラム教への根強い差別

 他方、ザカリアも指摘する通り、「包摂性」の課題がある。インドにおける女性雇用参画比率が、絶対的に低いだけでなく過去20年間で増えるどころか減っているということには驚かされる。しかし逆に言えば、女性雇用の進展を実現すれば、経済成長への前向きなインパクトの潜在力は大きい。女性雇用の進展は、急速過ぎる人口増加に対する一定の歯止めにも繋がるかもしれない。

 同じ「包摂性」の課題でも、女性問題に比べて、宗教間の包摂性推進、寛容度増大は、それほど簡単ではないように思われる。「少数派」であるイスラム教徒の2億という数はインドの規模と抱える問題の深刻さを示す上で象徴的である。実は、イスラム教徒が多数派だがイスラム国家ではないインドネシアと、最近インドは接近を強めている。自ら問題を抱えつつも「寛容」と「多様性の中での統一」を旗頭にしたインドネシアとインドが対話を強めることは、この点でも意味があるかもしれない。

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