2024年12月19日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月12日

 なお、言うまでもなく、台湾の世論調査は変わりやすいものであり、その結果を重視しすぎることは、全体を見間違える元になるが、他方これを軽視しすぎることも失敗の元となる。

 民進党の総統候補・頼清徳(元副総統)は、最近の世論調査によれば、支持率が約30%であり、3人のなかではトップの地位を維持しているが、頼は中国との距離の取り方に苦労してきた。

 過去に、頼は自らを「台湾独立のために仕事をする人間」と自称し、中国を怒らせたことがあるが、その後、台湾の位置付けとして、蔡英文と同様に、台湾はすでに、主権の確立した独立国(「中華民国・台湾」)であるとして、中国を挑発することなく現状維持路線を踏襲しようとしている。

 そして、「中国に抗して台湾を守る」から「台湾の民主主義を守る」との方向へ切り替えた。ただし、このような民進党の現在の路線も、中国共産党には通用しそうもない。習近平体制にとって、台湾問題は「核心中の核心問題」であり、中国の「内政問題」であり、妥協の余地はないもの、として、台湾を常に恫喝している。

カギを握る台湾民衆党・柯文哲の立場

 他方、国民党の候補に選出された元警察官僚であった候友宜は、最近の地方選挙において新北市長に選出された人物である。全体として、同氏は、国民党候補として、中国に対し、より宥和的なラインをとるだろうと見られている。そして、選挙運動が始まれば、同氏も自らの対中アプローチをより明確に発信せざるを得なくなるだろう。

今回の総統選挙は民進党対国民党の対立にとどまるものではなく、台湾民衆党の柯文哲がいかなる立場をとるかによってもかなりの影響が及ぶものと見られている。柯文哲は、最近の世論調査の結果では、支持率20%以上と、国民党の候友宜の支持率をわずかに下回るのみと見られている。柯文哲が首位に立った調査すらある。

 柯はかつて台北市長在任中、台北市と上海市の間で何度かシンポジウムを開催したが、その時、中国人と台湾人は「一つの家族」と発言したことがよく知られている。ただし、柯の立場が実際に中国共産党に近いか否かについては不明な点が少なくない。

 最近の中国の国民党への露骨な働きかけの典型的な例は馬英九元総統を中国に招待し、「墓参り」との口実の下に、南京を含む中国の一部都市に招待したことだ。それはタイミングから見て、蔡英文総統の米国立ち寄りの時期であり、その意図が台湾市民の分断策であったことは言うまでもない。

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