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2009年4月3日

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誰かがやってくれるって
思ってしまうのは、
いちばん危険なことです。

 買ってくればいいという常識の中にいる人にとって、買ってきてはダメ、自分でやりなさいというのは有効な荒療治だろうが、そのスタイルが身につくまでは大変だろうと思う。

(撮影:田渕睦深)

 「そりゃ、最初は俺の顔を見ると、みんな嫌な顔をするんだよ。1年間は俺が連れ歩いて、徹底的に自分でやらせる。それから現場の課長たちのところに回すんだけど、そこでその子がオシャカをつくったら、俺も一緒に課長に怒られてさ。二人で一生懸命に謝っているときに、その子も真剣に考えるんだろうね。俺も、別な教え方をすれば気付くんじゃねえかって思い直したりして」

 取材中にすれ違った若手社員の結婚相手について、心配なんだと筆者に話す中村は、けっこう世話焼きなんだろう。卓抜な創意工夫では雲の上の存在の会長が、自分のために課長に頭を下げるんだから、若手も必死になる。そうしているうちに、『ああ、そうか』と自分でわかる感じがつかめると、おもしろくなって、次にチャレンジするエネルギーが生まれると中村は言う。そこから先は、軌道に乗るのだろう。

 ということは、あれこれ与えて子どもや部下を思考停止にしてしまうのは、大人や上司が自分の時間とパワーを割くのをサボっていることの裏返しなのかもしれない。

 中村と話しているとき、筆者は唐突に「戦争は好きかい?」と問われた。嫌いだと答えると、言葉がどっと返ってきた。

 「嫌いなら、戦争にならないためのものを何でつくらないの? それが必要なものでしょう? 口で『嫌いだ』と言っているだけなのは、戦争をやると言っているのと同じですよ。食べ物の獲りあいでも戦争は起きている。だから私は口に出した以上、何としても海水を真水にしてあげるから、それで自分の国で食べ物をつくりなさい、戦争反対の糸口にしなさいって考えている。必要なものを自分でつくらないで、誰かがやってくれるだろうって思ってしまうのは、いちばん危険なことです」

 中村は、常に自分が実行することを考えている。でも日本では、便利さを買っているうちにみんなが、誰かがやってくれるだろうという気持ちになってしまっている。別に自分が考えなくても、同じように明日はやってくると思っている。でもそれが錯覚に過ぎなかったことは、この経済危機による混乱でも明らかだ。

 物質的には豊かになっている時代環境の中では、『便利さに浸ると人間はダメになる』と言うだけでは、何も始まらないのかもしれない。でも中村が今やっていることを見ると、ものを考えない人を大量生産している教育現場や職場や家庭においても、きっかけがつくれるのではないか。何も、人間ができないことを、やろうというのではない。人間は工夫しようと考える力を備えているし、それを発揮することに喜びがあるのだから。(文中敬称略)

「WEDGE」2009年4月号より

 

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