2024年11月22日(金)

ヒットメーカーの舞台裏

2013年9月23日

 同社が07年に撤退していた扇風機の再チャレンジに踏み出したのは12年の春。東日本大震災後の電力問題により扇風機が見直され、市場には高価格品も含めさまざまなタイプの商品が投入されるようになっていた。小柴は「節電のためというよりも、お客様に積極的に買っていただけるような魅力ある扇風機」を目標にしたという。

 基本は、かつて手掛けて技術蓄積もある縦置き型とすることにした。ただし、モーターはコストが高くなるものの節電や送風性能を追求するため、以前使っていたAC(交流)式からDC式に切り替えた。一方で小柴は、収納も「大きなテーマ」として、開発の初期からこだわり続けた。

 扇風機の高さは居間のソファーや食卓の椅子に座ることが主体となっているライフスタイルに合わせるため、1.3メートルほどにすることが決まった。そこで、オフシーズンでの厄介者とならないよう「この製品のひとつの機能としての『収納性』」を重視したのだった。その解決策として本体部分を分割することとした。

 送風ユニット1本当たりの長さは35センチとなったが、これは以前手掛けていた扇風機の小型タイプの寸法を参考にした。収納に適し、かつ送風機能も十分得られるというサイズだった。小柴らは送風ユニットを分割した結果、「面白いことができる」ということに徐々に気付いていった。

 まず、個々の送風ユニットの取付角度をずらせば、極めて広範囲な送風が可能になるということだった。小柴はマンションなどに多い、対面式のキッチンとリビングでの使用シーンを想定した。下から2つのユニットはリビング側に向け、1番上はキッチン側といった具合だ。こうして各ユニットの向きを自由にセットできる仕様が固まっていった。

 小柴や開発スタッフの発想は柔軟だった。ユニットは常に3連でなく、2連や1個だけといった使い方もできる。では余ったユニットはどうする─というところから、台座をもうひとつ付けようと、飛躍していった。サブの台座はコスト面から小型で、スイッチ機能もシンプルにした。送風ユニットを1個だけ付けて、向きを変えたり転がしたりしているうちに、サーキュレーターとして使えることにも気付いた。収納性という機能の追求が、「マルチパーパス」ともいうべき、この製品の最大の特徴を生み出す開発プロセスへとつながっていったのである。


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