2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年8月26日

 米ヘリテージ財団のディーン・チェン研究員が、同財団のウェブサイトに7月12日付で掲載された長文の論評で、中国の戦略は基本的に「戦わずして勝つ」ことであり、そのために解放軍総政治部が中心になって、「心理戦」を駆使して、平時・戦時を問わず、相手側の意思を打ち砕き、威圧し、混乱させ、内部から崩れることを意図している、と論じています。その中から、中国の心理戦の顕著な特徴、米国がそれに如何に対応するべきかについての提言部分を中心に紹介すれば、次の通りです。

 すなわち、中国人民解放軍(PLA)と他の国の軍隊を比較した時、決定的な違いは、それが共産党の軍隊であることだ。PLAは実際の戦場における作戦を立案するだけでなく、「三戦」を含む「政治戦」(political warfare)をも立案する。直接にそれを担当するのはPLAの総政治部である。

 「心理戦」(psychological warfare)は三戦のなかでは最も影響力の大きいものであり、情報、メディアなどを操作することを通じて、行われることが多い。 

 PLAの関係文書によれば、中国の心理戦は平和時と戦争時を明確に分けることなく、また、軍と文民の境界もはっきり区別せず、平和時と戦争時の両者を同一延長線上にある一体のものとして扱っている。心理戦の目標は敵の考え方、感情、習慣などに影響を及ぼし、これらを抑制したり、変えたりすることである。

 平和時においては、敵が威圧に対し脆弱になることを目指し、戦時においては混乱、不安、恐怖、無力感などの気持ちを起こさせることを目指す。敵の中に不和の種をまき、敵の力を無力化することも行う。

 人民解放軍総政治部が、2003年、2010年に作成した政治工作規則によれば、心理戦を行う時の5つの課題には次のようなものがある。

 1) 自分の側が正義に適っており、敵側が不正義であることを強調する。心理戦の最大の役割は、自分たちに「大義のための正義」があることを主張し、相手側の不正義を暴くことである。それによって、国内世論と国際的支持を集めることが出来よう。

 2) 自らの有利な点を強調する。自らの軍事力の優越性のみならず、科学技術、文化、経済力などの優越性を強調するプロパガンダの努力により、自らの陣営の自信と意思をかため、同時に相手側の意思を喪失させる。

 3) 抵抗する敵陣営の意思を弱体化する。敵に不安を抱かせ、敵の意思を打ち砕く。

 4) 敵の陣営内部に不和を創り出す。相手陣営内に反対者を創り出すのは、「統一戦線工作」の手法と同一であり、「孫子」の兵法の教えるところに従っている。


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