5) 心理的防御を行う。相手側からの働きかけや攻撃がいかに無意味で効果のないものかを暴露し、相手の士気を打ち砕く。
以上のような中国の心理戦に対し、米国は如何に対応すべきか。
1) 米国がアジア太平洋地域において強い同盟関係、友好関係の基盤を持つことを示す。米国への敵対行動が日、韓、タイ、フィリピン、オーストラリア、それに台湾、シンガポール、ニュージーランド、インドなどの一致した強い反応を呼び起こすことを明示する。
2) 中国の心理戦の内容を外部に晒すことによって中国を牽制する。
例えば、中国のプロパガンダの内容を具体的に公表したり、サイバー攻撃の具体例を外部にわかりやすく説明したりする。
3) 中国の心理戦の狙いは平時と戦時を連続したものとして行うことであり、当然ながら、今日現在も心理戦は進行中であることを認識する必要がある。
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本論評は、新味に欠ける部分もありますが、数多くの中国解放軍の関係資料を克明に解読したうえで書かれているところに大きな特色と価値があります。
チェンは、中国の心理戦は基本的に人民解放軍総政治部が担当し、平時、戦時を問わず、両者を一体のものとして扱っていると解説していますが、その点は、「政権は銃口より生まれる」という毛沢東の言葉に相通じるところがあると言えるでしょう。
チェンは米国のなすべきこととして、特に同盟国および友好国との間の一致した反応の有用性を強調していますが、今日の中国に対応する上では、関係諸国の個々の対応は各個撃破の対象となることが多いので、これはもっともな指摘です。
本論評自体は、中国自身の弱みについては、深く論じられていませんが、中国の心理戦の一つとして、チェンが引用している「解放軍分析家」の内部資料が参考になります。それによれば、今日の中国では、「一人っ子」政策の結果、若者たちは甘やかされ、心理的に脆弱になっており、ストレスの多い仕事を処理できなくなっている、と記載されている、とのことです。
一般に、中国共産党の戦略・戦術論は、「孫子」の兵法を借用したりして、短期的には人間心理を穿つ、効率の高いもののように思われています。ただし、長期的に見れば、それは、中国内部に意外な弱点や落とし穴を内包していることを隠蔽するものでもあると言えるでしょう。
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