頼清徳はかつて、「自分は台湾独立のために仕事をする人間」と自称したことがあったが、その後、台湾の位置付けとして、台湾はすでに主権の確立した国であるとして、できるだけ中国を挑発することなく、現状維持路線をとるという蔡英文総統の路線を引き継ぐことを強調している。この寄稿文でも、「台湾の民主主義をいかに守るか」という主張を強調したものとなっている。
頼はまず、27年前、1996年の「台湾海峡の危機」についての経験について述べる。それだけ、この事件が台湾の人たちに与えた影響が大きいものであったことを示している。1996年、台湾で初の民主的な総統選挙が行われた際、江沢民政権下の中国は、軍事演習と称して、台湾周辺海域にミサイルを発射した。この時、クリントン政権は、急遽、米海軍第7艦隊所属の空母2隻を台湾近海に派遣し、中国の行動を抑止した。
頼が語った「平和のための4本柱」
そして頼は、最近、ウクライナ侵攻を経て、世界の強権主義がいかに根強く、民主主義がいかに脆いかということを国際社会に知らしめたとして「平和のための4本柱」という形で自らの主張をまとめている。
その1は、台湾の防衛能力を高めることである。蔡英文総統の下、防衛費の増額、徴兵制の改革、予備兵力の増強などの諸措置がとられたが、これらは、いざという有事の際に、北京に極めて高い代償を支払わせることとなろう。
その2は、経済の安全保障である。民主化した台湾はハイテク産業の一大原動力となっている。元台南市長であった頼は、この地域周辺の半導体が高品質であることをよく承知している。
その3は、世界の民主主義国家との結びつきを強化することである。中国共産党の圧力に関わらず、台湾は、世界から国会議員、非政府機関、シンクタンクなどと強い結びつきを維持・拡大してきた。台湾は決して世界の中で孤立していない。
その4は、安定し、かつ一定の原則を持つ中台関係の推進である。中国共産党は、台湾との交流を中止し、「一つの中国」の枠組みを主張している。これは、習近平自身の言う「統一への日程表」である。自分の責務は27年前と同様に、台湾の民主主義と国際社会の平和と安定のために働くと言うことに尽きる、と頼は述べている。
なお、頼副総統は、8月15日に南米パラグアイで行われる大統領就任式に、総統の特使として出席する。その際、米国経由でパラグアイを訪問する予定で、それを念頭に、WSJに寄稿したのかもしれない。