ロシアのウクライナ侵略で、戦後の常識と価値観は揺らぎ、私たちは今、生き残るために変化することを余儀なくされている。装備品の安定的な製造を確保し、装備品の輸出促進を目的とした「防衛装備品生産基盤強化法」が6月7日に可決、成立(10月施行)したのは、この国が変わるためには欠かせないツールだからだ。
武力攻撃や戦争が想定される現実の危機となった以上、政府は真っ先に、自衛隊が戦い続けることができる「継戦能力」の確保に全力を挙げ、その能力を支える防衛産業の支援に取り組まなければならない。航空自衛隊が保有するF-15戦闘機約200機のうち、近代化改修されない半数の機体のエンジンを、インドネシアなど地域の安定に資する友好国への輸出に道を拓くことができるかが、その試金石となる。
F-15のエンジンをめぐる世界の需要
政府・与党は現在、防衛装備移転三原則の見直しを含めて、装備品の輸出拡大策を検討しているが、そこで浮上してきたのが戦闘機の中古エンジンを提供する案だ。
具体的には、空自の主力戦闘機F-15は、前「中期防衛力整備計画」(2019~22年度)で、保有する約200機のうち、電子機器など近代化改修ができない99機について用途廃止処分とし、今後10年間で最新鋭のF-35戦闘機に置き換える方針が決まっている。
用廃に伴って、1機に2基搭載されているF100と呼ばれる中古のエンジン約200基は、近代化機の修理用部品として一部は保管されるが、大半は廃棄されることとなる。その利活用として検討されているのが、インドネシアなどへの中古エンジンの輸出策だ。
米国製のF100ターボファンエンジンは、F-15戦闘機の初号機が納入された1980年から「IHI」(本社・東京)が中心となってライセンス国産をスタート、99年の生産終了までに440基を超すエンジンが生産されてきた。今回は約200基のエンジンが用廃となるわけだが、F100エンジンは、F-15だけでなく米国製F-16戦闘機にも搭載されており、インドネシアや韓国、台湾、サウジアラビアなど16の国と地域で再利用が見込まれている。
なかでもインドネシアは、F-16戦闘機12機を保有し、今後24機を追加保有する計画等があり、日本との間で「防衛装備品・技術移転協定」の締結に合意し、中古エンジンの提供と日本が持つ高度技術の移転を望んでいるという背景がある。政府関係者は「インドネシアへのエンジン提供は、この地域の安全保障環境の安定に寄与する」と話す。