輸出が生み出す多大なメリット
最大のメリットは、国内の防衛産業に与える影響だ。戦闘機のエンジン開発は中小を含め約1000社が保有するさまざまな技術の結晶であり、サプライチェーン(供給網)を絶やすことはできない。輸出が可能となれば、移転対象国であるインドネシア向けのエンジン整備や交換部品等の製造という仕事量の増加により、国内サプライチェーンの維持につながる。
メリットの二つ目は、インドネシア空軍の稼働率を上げ、インド太平洋地域の安全に貢献できることだ。継戦能力を示す指針の一つが、装備品の稼働率だ。防衛省によると、自衛隊が使う装備品のうち、実際に稼働するのは半分余りしかない。特に空自の戦闘機の半数近くは、修理に必要な部品や予算がなく、同型機の部品を外して流用する〝共食い〟が日常的に行われている。22年度の共食いは、空自だけで3400件以上という。
日本からのエンジン供与がなければ、インドネシア空軍がたどる道も同じで、IHIでは「日本が稼働率の向上や運用支援に継続的に貢献することで、移転対象国に対し、日本の戦略的不可欠性を確立でき、安全保障にも寄与できる」と多大なメリットを強調している。
これだけのメリットがありながら、インドネシアへのエンジン輸出を含め、移転三原則の見直しなどの結論は秋以降に出されるという。随分とのんびりした話だ。
今こそ戦後レジームから脱却する時
本稿を「戦後の常識と価値観は揺らぎ、生き残るために変化を余儀なくされている」と書き出したが、ウクライナ戦争で真っ先に変わらねばならないのは防衛分野だ。例えば、輸出できるものを品目で規制するのではなく、対象国を「同盟国と友好国(同志国)、ウクライナのように国際法違反の侵略を受けている国」に限るとし、対象国が日本に何を求めているのか、そして日本が対象国にどのような貢献ができるのかを判断すればいい。まさに今、一国平和主義という戦後レジームから脱却する時だと思う。
最後に付記するとすれば、インドネシアと日本との関係強化が生み出す価値だ。かつてインドネシアの最大の貿易相手国は日本だったが、現在は中国に大きく水をあけられてしまっている。しかし報道等によると、インドネシアの人々の中国への信頼度は22%と低く、日本への信頼度は最も高い54%だという。天皇・皇后両陛下を歓迎し、歓待してくれたジョコ大統領と市民の姿を見れば、それは明らかなはずだ。