2024年11月27日(水)

21世紀の安全保障論

2023年7月4日

越えなければならないハードル

 今国会で同強化法が成立し、同法に基づき防衛相が策定する基本方針に、装備品の輸出について「官民一体で推進する」ことが盛り込まれる。だが、実際に推進するためには越えなければならないいくつものハードルがある。

 その一つは、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の見直しだ。2014年に策定された現在の三原則は、事実上の禁輸政策を撤廃し、国際共同開発や友好国との技術協力などを目的に装備品の輸出に道を拓いた。だが、輸出の対象は、友好国の「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5類型に限られ、エンジンなどの部品は完成品と同じ扱いで、殺傷能力があり、モノを破壊できる戦闘機を含めた自衛隊の武器は一切輸出できない。

 現在、与党の作業部会で三原則の見直しに向けた論点整理が行われている。5類型の大幅な見直しは必至で、35年の実用化を目指して日英伊で共同開発する次期戦闘機など国際共同開発による装備品の第三国への輸出、さらに今回の戦闘機エンジンを念頭に、完成品には殺傷能力があっても、部品自体になければ輸出を容認する方向性が示される可能性が高いという。その方向性は妥当であり、強く支持したいと思う。

 なぜなら、今回の強化法は、ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにし、自衛隊に長期間戦い続ける「継戦能力」がなければ、国民を武力攻撃や侵略から守ることができないとの危機感から生まれた法律であり、継戦能力を確保するには、弱体化した国内の防衛産業を立て直すしかないからだ。与野党の大半が同法の成立を支持したのも、危機感を共有したからにほかならない。今こそ政府は、国民に向かって防衛産業の厳しい現状を説明しなければ、国民の理解を得るというもう一つのハードルを乗り越えることはできない。

戦闘機エンジンの開発は日本の宝

 輸出を厳しく制限され、納入先が自衛隊だけに限られた国内の防衛産業は、03年以降の20年間に100社以上が撤退した。19年にはコマツが軽装甲機動車の開発を中止し、21年には住友重機械工業が機関銃の生産から退いている。防衛産業に対し〝死の商人〟というネガティブなレッテルを貼りたがる識者も多く、政治も長い間、装備品の開発や生産を民間任せにし、衰退する産業の現場を見ないふりをしてきた。

 そうした政治の無責任さは、「防衛生産と技術基盤は、防衛力そのもの」というウクライナ戦争で気づかされた冷徹な現実と向き合えば、許されないことは自明だろう。

 いま何を為すべきか――。それは日本ができることに取り組むことだ。その意味では、今回の戦闘機エンジンという部品の輸出は格好の案件と言っていい。なぜなら、IHIを核とする戦闘機のエンジン開発は、衰退する防衛産業の中では、唯一と言っていいほど世界に誇れる高い技術力のある分野だからだ。

 本稿では詳細は省くが、敗戦国の日本が、戦後、米国から煮え湯を飲まされ続けてきたのが、戦闘機のエンジン開発だったといっても過言ではない。IHIをはじめエンジン開発に携わる技術者たちは、悔しさをバネに「国防に資する」という志を受け継ぎ、半世紀余りの歳月を経て、18年に完成させたのが「XF9-1」という実証エンジンだ。

 軽量でコンパクト、しかも米国製エンジンの出力を上回るパワーを備えた〝日の丸エンジン〟の存在があって初めて、日英伊による次期戦闘機の共同開発が実現した。そして、この高い技術を維持、発展させるためにもIHIを核とする戦闘機エンジン開発の裾野を維持し続けなければならない。


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