2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月23日

 英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのトニー・バーバーが、7月31日付の論説‘Ukraine’s EU road is littered with obstacles’で、欧州連合(EU)はウクライナおよび西バルカン諸国への拡大に向けて動き始めているが、加盟候補国が加盟要件を充たす必要があるという問題とは別に、肥大するEUが機能することを確保すべく、その制度と政策の改革を要するという難問が待っている、と論じている。要旨は次の通り。

(artJazz/gettyimages)

 ウクライナのEU加盟への道のりは長い。北大西洋条約機構(NATO)加盟より難しいかもしれない。加盟国の全会一致の合意が前提である上に、更なる巨大な挑戦が待ち構える。第一に、少なくとも5カ国(アルバニア、モルドバ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)のEU加盟交渉のプロセスと絡み合っている。ウクライナと同様、いずれの国も、民主主義、法の支配、機能する市場経済、加盟に伴う義務を履行する能力に関するEUの厳密な要件を充たすにはほど遠い。

 トルコは6番目の加盟候補国であるが、加盟の可能性は極めて低い。また、EUの扉の前にはボスニア・ヘルツェゴビナ、ジョージア、コソボが並んでいる。

 この長い潜在的な加盟国の列は、EU拡大への第二の障害を浮き彫りにする。欧州の東部・南東部の周辺の安定化のためにいかに望ましいとしても、拡大はEUの制度、政策、財政に係わる取り決めの広範な変更を必要とするであろう。しかし、ほとんどの加盟国の政府と有権者にはその準備ができていないと思われる。

 ドイツのショルツ首相は昨年プラハのカレル大学の講演で多数決への漸進的な移行を提案した。彼は拡大が進行するに伴い、(全会一致の方式では)ある一国がその拒否権をもって共通政策を妨害するリスクが大きくなると指摘した。それは強力な議論であるが、すべての人が賛成である訳ではない。ウクライナのEU加盟を熱烈に支持するポーランドだが、拡大したEUを機能可能とする制度の改革には異議を唱えている。さらに、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアと同様、ポーランドは自国の農民を守るためEUがウクライナからの穀物の輸入を制限することを欲している。

 EUの共通農業政策と地域開発援助スキームの大幅な改革がなければ、ウクライナはEU予算の莫大な部分を食うことになろう。他の加盟候補国もEUの支援を当てにするであろう。しかし、拡大に必要とされる規模での予算の改革は、2004年に加盟して以降多額の支援を得て来た中東欧諸国の受取額が減少することを意味するであろう。安全な欧州の名の下に、政党と有権者はこのような譲歩を受け入れる用意ができているであろうか?

 EUの拡大は可能であるし推進せねばならない。ウクライナおよび他の候補国は、加盟達成の前においても、EU資金への何らかのアクセスと政策形成への関与のような恩恵が与えられるべきである。それにしても、拡大はEUの70年の歴史において最も困難な仕事となるに違いない。

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