スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に強く反対してきたトルコのエルドアン大統領が一転して賛同、32番目のメンバーとしての加盟が事実上決まった。「危機感を高めて最後に利益を得る」というのが同氏の手法だが、今回もその真骨頂がいかんなく発揮された感がある。何を獲得したのか、その豹変の理由を探った。
狙いは米国のF16戦闘機供与
ロシアによるウクライナ侵攻に危機感を深めた北欧のフィンランドとスウェーデンが昨年5月、NATO加盟を申請すると、エルドアン大統領はテロ組織である「クルド労働者党」のクルド人を両国が支援していると非難し、加盟を認めないとぶち上げた。NATO加盟はメンバー全会一致の賛成が必要で、トルコの拒否権に両国と米欧はたじたじとなった。
エルドアン氏はその後、フィンランドについてはテロ問題で改善が図られたとして容認、正式加盟が認められた。しかし、スウェーデンについては、トルコ側の要求が満たされていないと断じ、ストックホルムでイスラムの聖典コーランが燃やされる事件が発生したこともあり、加盟反対の姿勢を続けてきた。
だが、リトアニアでNATO首脳会議が開催される前日の7月10日、スウェーデンのクリステション首相とストルテンベレグNATO事務総長との3者会談で、エルドアン氏はスウェーデン加盟への反対を撤回、「歴史的一歩」(事務総長)という転換に踏み切った。「転んでもただでは起きない」ことで知られる同氏が「何も得られないのに矛を収めるわけがない」(中東専門家)などと憶測が広がった。
同氏が得たものとは何か。まずはスウェーデンからテロ問題で譲歩を勝ち取ったことだ。
スウェーデンはトルコが要求するクルド人の返還に同意。憲法まで改正してテロ対策法を成立させ、テロ組織の支援者などに厳しい罰則を科すことを決めた。スウェーデンはさらに、トルコ市民の欧州連合(EU)入国を容易にしたり、トルコに対する貿易障壁を撤廃するよう働き掛けたりすることに同意した。
テロ問題に特化した「対テロ調整官」をNATO内部に設置するというエルドアン氏の要求が通ったことも大きいが、「ごねるのをやめたのはトルコの安全保障上の懸案だったF16戦闘機供与問題でバイデン大統領から譲歩を引き出したことだろう」(同)。バイデン大統領は11日、エルドアン氏と会談したが、この席で、トルコがスウェーデンの加盟を認めれば、トルコにF16の供与を行うという「裏取引」を持ちかけ、同氏が同意したとみられている。