2024年5月4日(土)

Wedge REPORT

2023年8月12日

ウクライナ戦争はどこへ向かうのかを考える上で、重要なカギの一つが中露関係です。安全保障などの面では協調が目立ちますが、果たして経済面でもそうなのか。その一端を国際貨物鉄道「中欧班列」の実態から描いた、「Wedge」2023年8月号に掲載されている「ロシアの愚行でとばっちり 大回り強いられる「中欧班列」」記事の内容を一部、限定公開いたします。
2022年4月、ロシア貨物を積み中国・モンゴル国境を抜ける貨物列車。中〝欧〟班列と銘打ちながらも、開戦後には欧州便は減り、ロシア便が増加しつつある(COSTFOTO/FUTURE PUBLISHING/GETTYIMAGES)

 2013年9月に中国の習近平国家主席が「一帯一路」政策を初めて提唱してから、10年を迎えようとしている。この間、ロシアをはじめとする旧ソ連諸国は、その全てが一帯一路の沿線国と位置付けられた。各国は、中国の協力を得ながら、輸送回廊の創設やインフラ整備プロジェクトなどの実現を目指してきた。

 現実には、旧ソ連の領域で、一帯一路の成果が目覚ましくあがったとは言いがたい。停滞しているものや頓挫してしまったプロジェクトも多い。「ロシア版新幹線」構想などは、失敗例の最たるものだろう。これは、中国の資本と技術を取り入れ、首都モスクワ〜カザン間に高速鉄道を敷設するというもので、14年に中露間で合意した。将来的には、中国の北京まで延伸するという野心的な案もあったが、その後の情勢変化で、両国は具体的な条件で折り合えず、プロジェクトは事実上放棄された。

 それに対し、一定の成果をあげたといえるのが、「中欧班列」である。

 中欧班列は、中国と欧州を結ぶ鉄道コンテナ定期輸送サービスである。運行開始は習主席が一帯一路政策を発表する2年前の11年3月である。この輸送サービスの輸送量は急拡大しており、13年の列車数が80便、輸送量が7000TEU(1TEUは20フィートコンテナ1個換算)だったところから、21年には1万5000便、146万TEUまで達している。「新シルクロード」の理念に適った中欧班列は、まさに一帯一路の「シンボル」的なプロジェクトと位置付けられるようになった。

 中欧班列には、複数のルートがある。主力となっているのがロシアとベラルーシを通るもので、19年には輸送量の9割以上はこのルートであった。中国の新疆ウイグル自治区の阿拉山口、または同区のホルゴスを越えてカザフスタンに入り、広軌(レールの幅が1520ミリメートル)車両に積み替え、ロシア、ベラルーシを通過し、ベラルーシ・ポーランド国境で再度、標準軌(同・1435ミリメートル)の車両に積み替えられて、欧州各国へと運ばれていく。
 中欧班列のトランジット輸送のうち、カザフスタン~ロシア~ベラルーシというルートの輸送を一手に担っているのが、ユーラシア鉄道アライアンス社(ERA)である。ERAは、ロシア鉄道、ベラルーシ鉄道、カザフスタン鉄道が3分の1ずつを対等出資することで設立された。

(注)「その他」の大部分は中露間の輸送と考えられる 写真を拡大

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