2024年4月15日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月10日

wildpixel/Gettyimages

 6月20日付の米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は「欧州の目標は対中関係ではなく対中リスクの遮断」と題する同紙ブリュッセル特派員キム・マカレルらの解説記事を掲載し、同日に発表された欧州連合(EU)経済安保戦略を巡る今後の議論で欧州の対中政策の決意が試されることになると指摘している。

 EU委員会は6月20日に経済安保戦略を発表した。リスクをもたらす国への投資規制を検討することを加盟国に呼びかけた。国名の言及はないが、中露との経済リスク減殺が目的だ。欧州は従来貿易・投資に開放的だったが、中国の経済力増大につれ、地政学的ライバルのもたらすリスクへの懸念が高まっている。

 経済安保戦略は、供給網の混乱や欧州技術が他国の軍事目的に使われる可能性など、経済リスクのいくつかを挙げ、その対応のため、一定の対外投資への新規制導入や、軍民両用物品の輸出管理調整を含むEUの貿易・投資対応を大幅に変える可能性のある手段の検討を加盟国に呼び掛けている。

 欧州は、中国の対露関係や、途上国インフラへの資金提供で影響力を高めるやり方、国際機関重要ポスト取得の動きや、特定分野で欧州が対中貿易・供給網に依存していることを懸念している。

 今回の戦略により、加盟国が対中貿易を実際どこまで制限するか、各国経済に重大影響を及ぼす決定権限をどこまでEUに与えるかに関する長期的論争が始まる。通常加盟国は安全保障関連の権限は譲らない。半導体機材メーカーASMLがあるオランダや、対中投資増加中のドイツなどは、EU全体の対外投資制限の導入に慎重である。

 EUはウクライナ戦争のため、米国他同盟国と共に軍民両用物資を含む広範囲の輸出規制をロシアに課しているが、ロシアは第三国経由で西側製品輸入を継続している。現在EUは、ロシアの制裁逃れを助けている国に輸出禁止を行いうる体制構築を目指しているが、李強首相が独仏両国を訪問するなど、加盟国の一部は心配している。

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 上記は、6月20日のEU経済安全保障戦略の発表を受けた解説記事だ。「デカップリング(分断)」ではなく「デリスキング(リスク低減)」というのは、フォンデアライエンEU委員長の問題設定だが、これは主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の共同コミュニケへの記載を通じて、G7の明白なコンセンサスともなった。

 問題は、「デリスキング」として具体的に何をやるかだ。EU戦略は議論の出発点で、議論が色々な論争を巻き起こす長期的なものになるのは、正に、具体的手段の特定がいかに困難かを表している。


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