2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月10日

 実は、この点について、広島G7共同コミュニケは一定の方向性を示している。第一に、サプライチェーンの強靭化だ。これは、中露との関係が最も深刻だが、それに限らない。相手が誰だろうが、重要物資の供給を限られた国に過度に依存することは避ける必要がある。

 例えば、コロナ感染拡大の初期、医療対処で不可欠な不織紙で出来た術衣を巡り驚くべき実態が明らかになった。日本全体の需要の40%を一つの日本企業がインドネシアで生産し、その全てが日本に輸出されていたのである。これはインドネシア政府の知るところとなり、一時は、完全な輸出禁止の事態になりそうだったが、50%をインドネシアに供給することで輸出禁止は免れた。その際に分かったのは、不織紙の原料は韓国が一大供給元で、それが中東に輸出され不織紙に加工され、それがインドネシアに輸出されて術衣になるという世界的供給網が存在したことである。

 現在のウクライナ戦争においても、どこに供給網の脆弱性が存在するかについて幅広く特定することが必須だ。そして、具体的対策を早めに始めることが重要だ。

 供給網の脆弱性は日本のみの問題ではない。主客を変えれば、中国にとってもロシアにとっても同様の問題は存在するはずだ。この機会に、中国やロシアが日本からの供給に過度に頼っている物はないか、改めて検証することも重要だろう。

冷戦期の「ココム」の教訓を活用せよ

 第二は、潜在敵国の能力強化に繋がる軍事転用が可能な機微な軍民両用技術の当該国への供給を規制することである。ハイエンド半導体の中露への供給規制が一つの例である。この点で早急に必要なのは、何が「機微な軍民両用技術」に当たるのかについて具体化し、できるだけ幅広い同盟国・同志国・パートナーの間で共有し、第三国経由把握を含む連携体制を構築することだ。これは難しいことのように聞こえるが、冷戦時代にわれわれは「対共産圏輸出統制委員会(COCOM=ココム)」という対ソ・共産圏輸出管理レジームを持っていたことを忘れてはならない。経済安全保障は突然出てきた問題ではなく、冷戦時代に既に有り、対応してきた問題である。G7主導で新たなレジームが早期に立ち上がることを期待したい。

 その上で、欧州には、EUと加盟国との権限関係という追加的問題がある。ウクライナ戦争に直面する欧州がこれにどう対応するかは、正に、彼らの決意を示すバロメーターになる。

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