4月に、ポーランドをはじめとする一部の欧州連合(EU)加盟諸国がウクライナ産農産物の輸入を禁止したことは、国際的に波紋を広げた。
2022年2月24日にプーチン・ロシアがウクライナ侵略を開始して以来、EUはウクライナと連帯し、手厚い支援を提供してきた。そのEUの中から、ウクライナの商品を拒絶する国が現れたのである。
しかも、ウクライナ産農産物禁輸の動きは、ポーランドから始まった。これまで難民受入等で、EUの中でも最もウクライナに寄り添ってきたはずの国だ。
ポーランド政府は4月15日、ウクライナ産の穀物およびその他食品の輸入を一時的に禁止すると発表し、その後品目を拡大していった。ほどなくして、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアもこれに追随した。
そもそも、EUでは共通通商政策が絶対のルールであり、加盟国が単独で輸入禁止措置を講じたりするのはご法度である。今回、ポーランドをはじめとする国々は、なぜその禁を犯してでも、ウクライナ産農産物の流入にストップをかけようとしたのか?
むろん、一言で言ってしまえば、「自国の農業生産者を守るため」である。しかし、その切実さを理解するためには、これまでの経緯と、問題の全体像を知っておく必要がある。
関税割当という障壁
ウクライナとEUは14年に「連合協定」に調印し、両者間では「深化した包括的な自由貿易圏(DCFTA)」が成立した。これに伴い、EUはウクライナ産品に対する関税を、基本的に撤廃した。
しかし、EUは多くのセンシティブな農産物・食品に関してはウクライナ産品に「関税割当」という制限を残した。一定量までは無関税で輸入できるが、それを超えると関税が課せられるという仕組みである。関税は、たとえば穀物であれば1トン当たり100ユーロ近くに上り、ばかにならない額である。
14年4月から関税割当制が施行されると、その後の実際の割当利用状況は、ややちぐはぐなものとなった。
小麦、とうもろこし、はちみつ、加工トマト、ぶどう・りんごジュース、砂糖などは、当該年の割当が年明け早々に使い切られてしまうのが通例だった。「欧州のパンかご」と称されるウクライナの輸出ポテンシャルに、割当の規模がまったく見合っていなかったのである。
他方、豚肉、牛肉、一連の乳製品などでは、ウクライナの生産者がEU市場に輸出するために、EUの認証を取得しなければならない。コスト面などから、そのハードルは高く、これらの品目では、せっかくの割当がほぼ利用されない状態が続いた。
結局のところ、EUは農業保護主義の牙城であり、ウクライナと連合協定を結んだからといって、ガードは固かったのである。ウクライナ穀物輸出業界のある大立者は16年、「DCFTAは欺瞞だ」と吐き捨てた。