モスクワ中枢部・クレムリンで3日未明に起きた飛行物体侵入事件は、その実行犯や動機をめぐってあまりにも謎が多すぎる。真相は一つでしかない。しかし、誰が行ったかでその目的や狙いも大きく様相は異なってくる。
そもそもクレムリンへの「攻撃」なら「大祖国戦争(第二次大戦)以来初の出来事」(露政治家)であり、今後の情勢如何では重大局面を迎える恐れがある。想定される4つのシナリオを検証してみた。
ドローン2機で速度は時速110キロほど
まず事実関係からおさらいしたい。
発生時間はロシア語で城壁を意味するクレムリンの一角の時計塔(スパスカヤ塔)で読み取れる。露大統領府はドローン2機の「攻撃」があったと公表したが、ネット上で公開された複数の動画によると、飛行物体の1機目は3日午前2時27分ごろ、クレムリン内にあるロシア大統領府の建物のちょうど真上で「無力化」(露大統領府)された。
「無力化」という言葉を用いたのは、果たして撃墜されたのか、それとも自爆したのか評価が分かれるためだ。
大統領府のオフィスは元老院の黄色い建物の中にあり、プーチン大統領の執務室も備えられている。飛行物体は、ロシア国旗が翻る、この建物の丸いドーム上の屋上部分で爆発、炎上した。
1機目の残骸はドーム状の屋根に落ち、燃え広がったようだ。映像から、10秒以上、炎の赤い光が闇夜に放たれているのがわかる。
2機目はその16分後の午前2時43分ごろ、同様に大統領府の丸いドーム上の屋根部分で爆発した。隣接する赤の広場では、5月9日に行われる戦勝記念パレードの準備が行われていた。
広場をはさんで向かい側にあるグム百貨店からの映像では、物体が爆発した瞬間に2人の人物が屋根付近にいたのが確認できる。露メディアは2人は1機目の爆発が何だったのかを屋根付近で調べようとしたのではないかと報じている。
2機目は明らかに翼のついた飛行物体で、強い閃光を放って爆発した後、残骸が地面に落下している。しかし、搭載爆発物の量は少なかったとみられ、1機目と同様に建物には引火していない。
2機目が爆発する映像から、物体が飛行する軌道や速度が詳細にわかる。現場の位置関係からすると、飛行物体は南西方面からモスクワ川を渡って、クレムリンにやってきたように思われる。
露独立系メディア・メドゥーサは物体の飛行速度に着目し、分析を試みている。