2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2023年5月6日

 ロシア大統領府は今回、事件発生から12時間後に、プーチン大統領を狙った「ウクライナのゼレンスキー政権によるテロ行為」だと断定。「報復を行う権利がある」とも主張した。

 しかし、この説にもいくつかの難点がある。

 もしこれがウクライナ軍の犯行なら、ロシアの奥深く、クレムリン中枢までウクライナ軍の攻撃用ドローンの侵入を許したことになり、防空システムの脆弱性を自ら認めてしまうことになる。これでは政権の面目丸つぶれだ。

 さらに、国威発揚を図る9日の対独戦勝記念日を前にして、クレムリンへの攻撃を自作自演することのリスクがあまりにも大きい。飛行物体が空中で爆発したのは、隣接する赤の広場の目と鼻の先。広場に「飛び火」すれば、政治的な意味合いも強い9日の軍事パレードが中止になる恐れもあったのだ。

 標的にするのであれば、露国防省や外務省、ロシア議会などの施設もあり、クレムリンを狙うにはターゲットの存在があまりにも大きい。

 1つ比較に挙げたい類似事案がある。

 ソ連時代末期の1987年5月28日、当時19歳の西ドイツの青年がヘルシンキからセスナ172Bを操縦してソ連の国境を越え、赤の広場に着陸したことがある。

 この侵入事件は世界中を驚かせた。冷戦の真っ最中に、防空網をかいくぐり、モスクワまで民間機の飛行を許した軍当局の責任問題が持ち上がり、当時のゴルバチョフ政権は国防相や防空軍総司令官以下、300人の軍関係者を解任したのである。

 今回の事件は米国で言うならホワイトハウスに敵国の飛行物体侵入を許したのと同じであり、重大過失を犯した軍幹部や担当者を含む相当人数の詰め腹を切らなければいけないケースといえよう。

 逆の言い方をすれば、軍幹部処分のスケールが小さければ、やはり自作自演の説が濃厚になってくるのではないだろうか?

この事件は今後の戦況にどう働くか

 まとめると、①ウクライナ正規軍②私設義勇軍やパルチザン③ロシアの自作自演の説はどれもタスク成功には不可解な点が残っており、シナリオ4としてはそれ以外の犯行グループの実行という説もあげたい。ロシア社会に不安や混乱を引き起こすことに利点を見出だす勢力が、戦争の不安定な状況を利用して、モスクワに騒擾状態をもたらそうとした可能性もあるのだ。

 いずれにせよ、プーチン政権はクレムリンへの飛行物体侵入事件を自ら都合のいいように利用しそうだ。ゼレンスキー政権がさらにロシア領内への攻撃を強めるとして、軍部隊への動員をしやすくする国家総動員態勢に入る口実にしたり、ゼレンスキー大統領をテロの首謀者にして逮捕状を取って、国際社会にウクライナの非道ぶりを訴えるきっかけにしたりすることは大いにありうるだろう。

 事件発生から一夜明けた4日、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「このような行動やテロ攻撃に関する決定は、キエフでなくワシントンで下されることを、われわれはよく知っている」と述べ、米国が攻撃の背後にいることは「間違いない」と述べた。

 4日未明には東部の前線地域だけでなく、キーウは南部オデッサなどの都市にもミサイル攻撃があり、空襲警報が頻繁に出された。

 ロシア軍の報復攻撃はこうしてどんどんエスカレートすることも予想される。プーチンの戦争は先の展開が見えない混とんとした状況に一歩一歩階段をあがっている。

 
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