ロシア中央銀行は、専門家らによる経済予測を集計して発表している。最新の集計結果によれば、ロシアの経済成長率は、2022年がマイナス2.9%、23年がマイナス2.4%と予測されている。
むろん、経済下落には違いないが、22年春頃には、同年の経済が8~10%落ち込むとの予想もあった。上掲の数字だけを見れば、意外に傷は浅かったという印象になってしまう。ウクライナが22年に30%以上のマイナス成長に見舞われていることを思えば、ロシアの「軽症」は一層理不尽に思える。
しかし、今日ロシアが直面しているのは、目先の国内総生産(GDP)のような数字では測りにくい性格の危機である。そもそも、戦争は政府による巨額の財政支出を伴うので、今のロシアのGDPはその分だけ「かさ増し」された状態なのである。実態は、統計数値が示す以上に深刻と捉えるべきだろう。
しかも、ロシア経済の残酷物語は、これからが本番だ。22年は何とか乗り切れても、23年には段々と誤魔化しが効かなくなってくるのではないか。自動車販売と軍需産業という2つの分野に絞り、ロシア経済が直面している問題を見ていくことにしよう。
残酷その1:まともな車が手に入らない
ロシアでは、2000年代に爆発的なマイカーブームが起き、日本のトヨタや日産を含む多くの外国メーカーがロシアでの工場建設、現地生産に踏み切った。ピーク時の08年には、新車の販売台数が、300万台近くに達した。
しかし、近年のロシア経済の低成長を背景に、販売は低迷。そして、ウクライナ侵攻が起きた22年には、一気に70万台にまで低下した。これは前年から実に60%もの縮小となる。
2月の軍事侵攻開始後、欧米日韓という先進諸国のメーカーが相次いで、ロシアでの現地生産、ロシア市場への完成車供給を停止した。
その際に注目すべきは、現時点では必ずしもロシアへの乗用車の輸出そのものは、制裁の対象になっていないことである。たとえば日本の場合は、600万円を超える高級車の対ロシア輸出は4月5日から禁止されているが、それよりも安い車は輸出できないわけではない。
それでも、レピュテーションリスク、すなわちロシアと商売を続けることで自社のブランドイメージが傷付く恐れがあり、また輸送や送金などが不確実であることから、先進諸国のメーカーは一様にロシアでの販売を取り止めている。ロシア市場にはもともと、世界50以上の自動車ブランドが展開していたが、現時点で公式的に残っているのは、わずか15程度だという。