2023年2月5日(日)

プーチンのロシア

2023年1月4日

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服部倫卓 (はっとり・みちたか)

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授

1964年静岡県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程(歴史地域文化学専攻・スラブ社会文化論)修了(学術博士)。在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員などを経て、2020年4月に一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所所長。2022年10月から現職。

 欧米日韓のメーカーが新規供給をストップしても、ロシア市場からそれらの車が完全に姿を消したわけではない。まだ一部在庫が残っているのと、少量ながら並行輸入で入ってくる商品があるからだ。ちなみに、ロシア政府が並行輸入を積極的に認めていることもあり、22年にはロシア新車販売の10%程度が並行輸入車になった模様である。

 ディーラーは、残り少ない在庫の値段を釣り上げている。その結果、平均販売価格は230万ルーブルとなっており、これはコロナ危機前の19年と比べると50%増である。今は自動車ローンの金利も高い。こうしたことからロシアのドライバーたちは、新車の購入を状況が好転するまで延期するか、あるいは中古車に乗り換えている。

 欧米日韓勢の撤退により、残された選択肢はロシアの地場ブランド車と、中国ブランド車くらいしかない。22年に販売された70万台のうち、ロシア・ブランド車が25万台、中国ブランド車が10万台となっている。露・中ブランドのシェアは月ごとに高まっており、11月には販売された新車の実に86%が露・中ブランドだった。

 23年のロシア新車販売は、前年から10~15%程度回復し、80万台程度となるというのが、業界筋の見方である。しかし、手軽に入手できるのは、機能を削ぎ落したロシア車か、ドライバーが信用していない中国車ばかり。過去20年ほどで、ロシアの消費者の目はすっかり肥えてしまい、これではなかなか食指は動かない。

 侵攻開始後、日本からの対ロシア中古車輸出が、ちょっとしたブームになっているのも、うなずけるというものである。日本製中古車はロシア国産車よりもコスパが高く、中国ブランドの新車よりも値下がりしにくいわけで、ロシア極東地域を中心に圧倒的な支持を集めている。

残酷その2:戦車が作れない

 さて、今後のロシアの戦争継続能力に直接かかわってくるのが、軍需産業の動向だ。残念ながら、その実態は厚いベールで覆われ、うかがい知れない。

 ただ、ロシアの軍需産業が、欧米日による制裁圧力にさらされ、思うように稼働できていないことは、まず間違いないところである。

 しばしば指摘されるとおり、半導体をほぼ全面的に輸入に依存するロシアにとって、先進国からの輸入が止まった打撃は計り知れない。実は以前からロシアに半導体を輸出している最大の供給国は中国であり、中国は対ロシア制裁に参加はしていないが、他の国からの供給途絶分を中国が補うのは、質・量ともに不可能である。

 ロシアがカザフスタンなどの同盟国を迂回して大量に家電を輸入し、そこから電子部品をむしり取って使っているなどという話もある。真偽は不明ながら、ロシアがそれだけ追い詰められていることは事実であろう。

 ロシアにもマイクロエレクトロニクス工場は存在するが、その生産はやはり外国からのコンポーネント(部品)輸入に依存しており、現在は開店休業状態と伝えられる。足りないのはハイテクだけでなく、ローテクも同じであり、たとえばベアリング不足も軍需産業を苦しめているという。


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