残念ながら、2月のロシア軍によるウクライナ侵攻で始まった戦争は、越年することが確定的となっている。そうした中、プーチン・ロシアによる侵略戦争に歯止めをかけようと、米欧日は厳しい制裁を科してきた。にもかかわらず、ロシア経済が崩壊する事態には、今のところ至っていない。いや、むしろ目先の数字だけを見ると、ロシアが負ったのは「かすり傷」にすぎないのかと思えてしまう。
経済は空前の経常黒字
ロシア政府の公式的な見通しによれば、2022年の経済成長率はマイナス2.9%と予想されている。経済下落には違いないが、春頃には8~10%程度のマイナスが取り沙汰されていたことを思うと、意外に落ち込みは軽微だったという印象だ。
ちなみに、ロシアは08年のリーマン・ショックで大きな痛手を負い、翌09年に7.8%ものマイナス成長に見舞われたことがあった。それに比べると、22年のマイナス2.9%という予測値は、やはり小幅な落ち込みとの感が強い。
ロシアが思わぬしぶとさを発揮したのが、通貨ルーブルの為替レートである。ルーブル・レートは、2月の侵攻開始を受けいったん1ドル=120ルーブル程度にまで暴落したものの、短期間で盛り返し、その後は概ね1ドル=60ルーブル前後の水準で推移している。実は現時点で生産現場から聞こえてくるのは、「ルーブルが強すぎる」という悲鳴の声である。
軍事侵攻開始後、ロシアの商店で品切れが起きたり、物価が急激に高騰したりといったことが、日本のニュースなどでも伝えられた。しかし、実は急激なインフレは3月前半だけの現象で、その後物価はすっかり落ち着きを取り戻した。夏などはむしろデフレとなり、その後もごくマイルドなインフレしか生じていない。
そして、現下のロシア経済で最も特異な現象は、制裁包囲網を敷かれていながら、空前の経常黒字を記録していることである。22年の経常収支は2500億ドルほどの黒字になるとみられ、これは過去最高だった21年の約2倍に相当する。これではまるで「制裁下の焼け太り」のようである。
そして、それを稼ぎ出しているのは、石油収入である。米欧がロシアからの石油輸入を禁止・削減しても、中国、インド、トルコなどが割安になったロシア産石油を買い増していることが背景にある。今般主要7カ国(G7)の主導で決まったロシアの石油輸出価格に上限を設ける仕組みも、実際にどこまで効果を発揮するかは未知数だ。