ロシアの連邦財政は、石油・ガス輸出収入で歳入を賄っている部分が大きい。そのうち、ガス収入こそ大幅に低下しているが、石油輸出が堅調なため、22年1~10月の連邦財政は1284億ルーブル(約21億ドル)の黒字を維持している。
カネがあってもモノがない
こうして見てみると、今のところロシア経済はしぶとく生き延びており、1年以内といった短期的なスパンで崩壊するようなことは考えにくい。また、金融・財政面からロシアを追い詰めるという試みも、すぐには奏功しそうもない。
しかし、そのことはロシア経済が中長期的にも持ち堪えられるということを意味しない。また、金融・財政面というよりも、むしろ実物経済の面で、ロシアは苦境に立たされている。
上述の経常黒字にしても、明らかに「悪い黒字」である。資源高により輸出収入は大きいにもかかわらず、国際的な制裁で、必要なものを輸入できず、結果的に黒字が膨らんでいる状態だからだ。
米欧日の大企業は、制裁で禁止された以外の分野でも、ロシアとの取引を手控えるようになっている。輸送や送金の不安が大きいことに加え、自動車やアパレルなどの場合には「レピュテーションリスク」、つまりロシアで商売を続けることによりブランドイメージが傷付く恐れもあるからだ。
このままの状況が続けば、ロシアの国際的孤立がさらに深まり、経済が機能するのに必要な商品やサービスを調達できず、それによってロシアが中長期的に衰退していくことは、確実だろう。
とりわけ、ロシア経済の屋台骨である石油・ガス産業の先行きは、前途多難と言える。米欧日からの制裁に直面し、プーチン政権は基幹の石油・ガス産業においても、機械設備やサービスの国産化、国内での産業連関の充実など、いわば自力更生に舵を切ろうとしている。
だが、ロシアはこれまでもそれを試みてきたにもかかわらず、高度な分野ほど依然として輸入に依存している。ロシアの35年までのエネルギー戦略によれば、ロシアの石油生産量は長期的に、良くて現状維持、悪ければ減産が進んでいくことになっている。国際的な孤立により、ロシアの石油・ガス産業は単純再生産もままならなくなり、斜陽化していく公算が強まった。
ロシアは、基礎的な食料については、かなりの部分を自国の生産で賄える国である。しかし、トウモロコシ、ジャガイモ、テンサイなど、一見自給率が高くても、種を国際メジャーから買い入れている例が多い。近年成長が著しかった畜産も事情は同じで、雛や仔牛を輸入に頼っていたりする。欧米からの輸入が止まれば、ロシアの農業も立ち行かなくなるのだ。
ロシア経済では今後、必要とするモノ・サービスの欠如で生産が頓挫する現象が、連鎖的に広がっていくと予想される。その結果、インフレや失業なども深刻化するはずで、そうなればプーチン体制の求心力も低下するかもしれない。