ロシアの一般市民は、「外交や安全保障などの難しい問題は大統領にお任せ」という傾向が強いが、逆に自分に身近な社会・経済の問題については敏感であり、生活が苦しくなればプーチンに駄目出しをすることも考えられる。
プーチン政権側にしても、民主化や反戦を掲げる勢力は容赦なく弾圧するが、「生活を何とかしてくれ!」という国民の叫びは、取り締まりにくい面がある。
忍耐強く続けるしかない
ロシア側は10月中旬から、ウクライナの電力インフラに対するミサイル攻撃に出ている。ただ、これはむしろロシアの弱さの表れだろう。戦場で敵の軍隊を叩くのが本来の戦争だが、今のロシアは戦場で思うように勝てないがゆえに、後背の都市部に戦略爆撃を加えて、ウクライナ国民と指導部の抵抗の意思を削ごうとしているわけである。
厳しい冬を迎える中で、電力や暖房の供給が滞り、ウクライナ国民は苦難を強いられているが、この揺さぶりにウクライナ側が屈する様子は見られない。
戦争が長期化する中で、今の状態が続けば、ロシア経済は没落していく可能性が高い。困ったことに、プーチンは自国経済を蝕むそのような病魔などお構いなしに、対ウクライナ戦争と欧米との駆け引きに明け暮れている。国際的な制裁で、ロシア経済にダメージは与えられても、プーチンの行動を変えさせるのは一筋縄では行かない。
ロシア・ウクライナ戦争は、ある程度のところで戦線が膠着し、戦闘が下火になるということは考えられる。しかし、賠償や戦争犯罪人引き渡しの問題、そしてクリミアの領有などで、ロシアとウクライナが妥協点を見出せるとは思えず、本格的な和平に向かうには障害が大きすぎる。
言うまでもなく、対ロシア制裁の主眼は、プーチンに侵略戦争を止めさせることにある。現在のところ、プーチンが屈する様子はないので、その意味では「制裁は効いていない」という声が挙がるのも、もっともだ。
だが、国際社会として肝心なのは、なるべく広範な国を巻き込んで、まずはロシアの行動を認めないという意思表示を行い、団結を示すことだろう。制裁によってウクライナでの惨劇に歯止めをかけられていないのは歯痒い限りだが、そもそも制裁という手段には一定の限界がある。ロシアがその蛮行に対し巨大な代償を支払っていることは紛れもない事実であり、国際社会としてはこれを忍耐強く続けていく他ないであろう。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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