2024年12月2日(月)

Wedge REPORT

2023年8月28日

 反対派の論点を調べるため、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の鳥海不二夫(とりうみふじお)教授がX(旧ツイッター)で2023年7月の1カ月間に「汚染水」「処理水」を含む投稿101万349を分析し、拡散された投稿から「風評」を含むものの割合を算出した。結果、処理水放出反対派が拡散した投稿の中には風評被害に関する言及が僅か4.6%しか無かったという。

 繰り返しになるが、当事者が最も懸念するのは「風評」だ。ところが、少なくともX(旧Twitter)上の統計上では反対派の論点は「風評」にはほとんど無い。つまり、当事者の懸念になど全く目を向けていない傾向が明らかになった。

 さらに、処理水放出反対クラスターには強い政治的偏向、党派性も確認されている。具体的には立憲民主党、共産党、れいわ新選組を支持する投稿を拡散しているアカウントが多い事実が明らかになった。この傾向は、19年11月19日~22年11月18日 の3年間を対象にツイッター上で「汚染水」をキーワードとして検索し、「汚染水が海洋放出される」かのようにツイートした認証アカウントを調査した全く別の統計結果とも完全に一致する。

 これらの統計結果は、なぜ一部の処理水放出反対派が当事者に不利益をもたらす「汚染水」という呼び方を執拗に繰り返してきたか、その一因を裏付けたとも言えるだろう。

科学にも民意にも背を向けた報道

 このような偏向は報道機関にも及んでいる。たとえば、処理水海洋放出決定翌日に全国の新聞各紙が出した社説の比較が象徴的だ。

 処理水放出に言及し、反対の立場を明確にしたのは北海道新聞、中国新聞、信濃毎日新聞、神戸新聞、琉球新報、共同通信、東京新聞、しんぶん赤旗、京都新聞、新潟日報、西日本新聞、高知新聞、朝日新聞、毎日新聞、河北新聞、沖縄タイムス、日本農業新聞であった。

 一方で、賛成を明らかにしたのは地元紙である福島民友新聞、そして日本経済新聞、読売新聞、産経新聞の4紙に留まった。

 前述したように、海洋放出の安全性と妥当性はIAEAやG7などが認めており、民意も賛成多数となっている。地元紙さえ賛成する中、反対が大多数を占める報道機関の「正しさ」は何に担保されているのか。

 各紙の主張をいくつか具体的にピックアップしてみよう。北海道新聞は「国内外に与える影響を見極め、福島をはじめとする地域の関係者との対話を密にして、海洋放出に代わる方策を追求すべきである」と述べている。

 しかし海洋放出以外の方策検討はトリチウム水タスクフォースや多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会において既に10年以上検討された上で決定されている。

 そもそも、貯蔵タンクが立地する双葉郡の被災自治体は地上での継続保管に反対し続けてきた。「海洋放出反対」とは、つまり「地上での継続保管を求める」ことを意味する。北海道新聞の主張はこれまで積み重ねてきた対話と成果を一方的に無視し、被災地に更なる負担と理不尽を強いているに過ぎない。

 中国新聞は「通常運転の原発の排水と、デブリに触れた水では比較になるまい。異常があっても回収する手立てはなく、一度流せば取り返しがつかない。このまま放出に踏み切れば、将来に禍根を残す」と書く。科学的性質が同じものを「比較になるまい」などと忌避するのは、「たとえいかなる成績を示そうと性別、人種、出身地、病歴などを理由に正当に評価しない」態度であり、中国新聞の地元で広島が苦しめられた被爆者差別と何が違うというのか。


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