国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長が2023年7月4日、東京電力福島第一原子力発電所に関連する多核種除去設備(ALPS)処理水について、海洋放出の安全性に対する評価を含む包括報告書を岸田文雄首相に手渡した。日本の農水産物や食品輸出先の第2位は香港なのだが、香港政府は処理水の影響で輸入禁止または厳格化しようとする動きがある。最重要輸出先だけに、さらなる輸入規制は日本と香港の双方に影響が出ることは避けられない。実際の香港はどのような状況になっているのか。
輸入規制へと傾きつつある香港政府
香港の福島産の輸入についてはどのような現状か? 野菜、果物、牛乳などは輸入停止で、福島産の水産物、食肉、家禽卵は放射性物質検査証明(セシウム1000Bq/kg以下)が必要だ。茨城、栃木、群馬、千葉については、産品によって放射性物質検査証明、輸出事業者証明の提出が求められるが、それ以外の都道府県については、特に規制はない。
香港政府の動きを見ると、食品安全を担当する香港政府環境及生態局の謝展寰局長は22年10月11日の立法会で「処理水を排出するなら輸入規制を行う可能性を排除しない」と発言したほか、23年6月10日前後には親中派新聞『大公報』への寄稿や、テレビ番組への出演で、「放出されれば輸入禁止を検討する」という主旨を表明した。
また、6月28日の立法会では「IAEAの報告と本土の専門家の意見、近隣地域の方針も参考にしながら判断する」と答えている。検査強化に必要な機器の購入のために年間600万香港ドル(約1億1000万円)と人権費およびメンテナンス費として年間380万香港ドル(約7000万円)の追加予算を組むことも表明した。
この中で、本土の専門家の意見を聞くというのがポイントだ。香港側でも判断はできるのに、あえて中国の専門家の判断を仰ぐというのは、中国政府の意向に沿って動いているとも言える。裏を返せば、仮に香港側がOKと判断しても、中国側でダメとなれば、結果はアウトになる可能性が高い。