2024年5月17日(金)

WEDGE REPORT

2023年7月7日

日本の食材があふれている香港

 こうした政府の判断が香港の飲食関連の市場に影響を与えることは確実だ。農林水産省が2月に発表した「2022年の農林水産物・食品の輸出実績」によると、香港は2086億円で、中国に続く2位だった。新型コロナウイルスの影響を受け前年比4.8%減だったものの、20年までは16年連続1位。一人当たりの単価でみると人口わずか730万人の香港は2万8575円、14億人中国は199円で大きな差が出ており、香港市民の日本食好きがよくわかる。

 コロナ前の19年、香港からの来日者数は人口の3分の1にあたる約220万人を記録。つまり、香港人は本物の日本の食材や味を知っている成熟した消費者と言える親日都市だ。

 実際にスーパーマーケットに足を運んでみても、例えば、日本産のフルーツはすっかりブランド品になっていて、高額でもよく売れる。寿司も完全に定着しており多くのスーパーでも寿司が売られている。

 『ミシュラン・ガイド香港・マカオ版』では、東京・銀座で伝統的な江戸前寿司を提供する「鮨よしたけ」初の支店である「すし志魂」が14年から23年まで連続で3つ星を獲得した。19年に香港へ進出したスシローは今や約20店舗を構えるまでに成長するなど寿司を食べる環境は日本と大差はない。納豆も含め多くの日本食材が揃っているため、日本と同じ食生活をすることは問題なくできる。

 こうした状況の中での日本産〝禁輸〟の動きだ。香港にある飲食店関係者は「両政府の政策なので仕方ありません。すでに代替先を探していますが、難しいのは、規制対象の県がどこまで広がるのか、対象の商品がどこまで広がるのかが分からない点です。売上も下がると予想していますが、範囲が分からないので減少幅が見通せないのも悩ましいです」と状況を吐露する。

市民の考えは3つに分かれる

 香港市民はどう思っているのか? 親中派の政治団体の香港工會聯合會は6月23日、処理水についてのアンケート調査を発表した。

 6月15日から17日に18歳以上の601人に聞いたところ、78.3%が「放水に非常に反対、または反対」とし、63.1%が「日本からの輸入品の消費を減らす」と回答した。また。、「放射性物質検査証明を信じるか?」という問いには、47.2%が「信じる」とし46.8%が「信じない」と意見が割れた。

 筆者の香港人の友人は「気にならないといったらウソになるけど、基準値以下で放出するのだから大丈夫だと思う。ただ、深い知識があるわけじゃないからニュースを聞くと『やっぱり危険なのかな?』って思っちゃう」と、数字という客観的な事実より、輸入禁止という事実の方が心理的インパクトが大きいことを話してくれた。

 一方、別な香港市民は「心配だったら、福島産や周辺の県の産品を買わなければいいだけ。自分たちの選択だよ」と冷静な口調だった。また、香港に日本の食材を送っている香港人は「結局のところ、気にする人は食べないし、気にしない人は食べ続ける。あとは状況によって判断する中間の3つの層に分かれていると思います」と分析した。


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