2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2023年6月10日

 東京電力福島第一原子力発電所から放出が予定されている多核種除去設備(ALPS)処理水(以下処理水)に対し、5月21日から26日にかけて韓国から視察団が来日した。視察団は原発や放射線分野の専門家ら21人で構成され、東電や経済産業省の案内でALPSや処理水に含まれるトリチウム(三重水素)などを測定・確認するタンク、処理水を海沿いまで移送する設備などを確認していった。

福島原発の処理水放出に対し、韓国の不安を払拭する必要がある(Chung Sung-Jun / スタッフ/gettyimages)

 ただし、この視察は処理水の安全性について改めて「評価」「検証」や「レビュー」が行われたものではない。あくまでも韓国国内における理解を深めるための「視察」であり、韓国側も同様の認識であることが事前に確認されている。

文在寅前政権が作り上げた処理水へのイメージ

 廃炉過程で発生する汚染水の無害化処理はALPSによって可能となっており、トリチウムも海洋放出時には国の定めた安全基準の40分の1(世界保健機関〈WHO〉飲料水基準の約7分の1)未満まで希釈する。これらは諸外国が日常的に放出している量と比べても、文字通り桁違いに少ない

 つまり、福島の処理水が「放射能汚染」を起こすことはない。その安全性と海洋放出の妥当性は公開されている実測データの他、IAEA査察によっても裏付けされている。先日行われた広島サミットでは主要7カ国(G7)も支持を明言した。韓国はなぜ、この期に及んで視察団を派遣したのか。

 2022年の就任以来、日本との関係改善に意欲を見せる尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は、今年3月に行われた菅義偉前首相との会談で処理水について言及し、「IAEAによる科学的で客観的な見解を重視する」「時間がかかっても韓国国民の理解を求めていく」と述べていた。発言の背景には文在寅(ムンジェイン)前政権下で韓国社会に蔓延した、根強い偏見差別がある。

 韓国では16年、ソウルで開催する予定だった東北地方などの食をPRするイベントが中止に追い込まれた。17年には福島空港を利用しようとした韓国チャーター便がキャンセルされている。いずれも、根拠の薄い「放射能汚染」という指摘だ。

 文在寅前政権は、こうした差別を止めるどころかエスカレートさせた。

 当時の与党「共に民主党」は東京五輪に向けて根拠が見えない数値を記載した地図を公表し、東日本の大半が危険であるかのようなキャンペーンを行った

 同党国会議員であり大統領候補総括特報団長(当時)の閔丙梪(ミン・ビョンド)氏は、ツイッター上で五輪のシンボルに旭日旗と放射線警告マークを重ねて「2020年東京放射能五輪」などと侮辱した。韓国メディアも流れに便乗し、KTV国民放送(韓国国営放送)も「東京『放射能オリンピック』は憂慮(懸念)ではなく現実!」などと伝えていた。

 当然のように、処理水もやり玉に挙げられた。韓国MBC放送は 「7ヵ月後には済州島に達する……私たちの海の汚染、あっという間に」などと海が広く汚染されるかのような動画を配信し、新聞各紙も不当な「汚染水」という表現を繰り返した。結果、韓国環境団体が5月に行ったアンケート調査によれば韓国国民の85%が日本の処理水放出に反対し、72%が水産物の消費を減らすと答えている。


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