2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月5日

 ここ数カ月間、バイデン政権は、イスラエルとサウジアラビアの国交樹立に躍起になっているが、上記の記事も指摘している通り、サウジアラビアが(1)米国との相互防衛条約の締結と(2)ウラン濃縮技術を含む核燃料サイクルを保有することを認めるよう望んでいることの二つが大きな障害となっている。

 その最中に米国がバーレーンと戦略的安全保障経済協定に調印し、かつ、ブリンケン米国務長官が「米国は、この協定を域内の他の国々と同様の協定を結ぶ上でのひな形としたい」と述べているのは気になる。

 しかし、この戦略的安全保障経済協定はサウジアラビアが望む相互防衛条約のレベルではなく、「(侵略が起きた場合に)直ちにパートナーや同盟国と協議し、侵略に対抗するためにもっとも相応しい方法を決定する」とのことであり、かつ、「この協定は、法的拘束力はあるが、米議会の承認を得なければならない条約では無い」とのことである。

 恐らく、バーレーンが侵略されても直ちに米国が軍事介入する可能性はかなり低く、サウジアラビアが期待しているレベルの安全保障協定の内容ではないと思われる。そもそも、「法的拘束力はあるが、米議会の承認を得なければならない条約ではない」協定が、米国に軍事力の行使を義務付けるとは思われない。

最終的な狙いはイランの抑止

 サウジアラビアは、イスラエルと国交樹立をすれば、イスラエルがサウジアラビアの領空やインテリジェンス、基地等を使ってイランの核施設を攻撃すると疑っている。サウジアラビアは、その場合、イランは言葉による以上の警告を発すると考えており、そのような事態に対する米軍の具体的な支援を求めていると思われる。

 しかし、米国は、イランを抑止するため米軍の代わりに湾岸アラブ産油国とイスラエルの共同防衛体制を構築しようとしているのに、かえって米軍がイランとの直接衝突に巻き込まれるリスクを高める訳には行かないであろう。

 上記の記事を読んで気づくのは、米国・バーレーンの戦略的安全保障経済協定を他の湾岸アラブ産油国との協定のひな形とするというストーリーが、途中でサウジアラビアとイスラエルの国交樹立の話に切り替わっていることである。

 このことは、やはり、現在の米国の対ペルシャ湾政策が、米軍のこの地域からの撤退を可能とするために軍事力のあるイスラエルにアラブ産油国を支援させてイランの脅威に当たらせようというものであることを示していると思われる。その核となるのは大国サウジアラビアであり、それゆえにバイデン政権は、イスラエルとサウジアラビアの国交樹立躍起になっているということであろう。

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