米ワシントンのシンクタンク、中東研究所のハリソン上級フェローとヴァタンカ・イラン部長が、6月26日付けで米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」のウェブサイトに掲載された論説‘The Middle East Might Be Moving Toward Stability’において、現在の中東の合従連衡の動きを分析し、中東全体の緊張緩和にもつながり得る、と論じている。要旨は次の通り。
中東地域ではサウジアラビアとイランの関係正常化に始まり、アブラハム合意(イスラエルとアラブ首長国連邦〈UAE〉、バーレーン、モロッコ、スーダンとの外交関係樹立)、トルコ・エジプト間の友好関係の復活と、緊張緩和が進んでいる。これらの動きは域外国の思惑によらず、関係国がそれぞれの国益に基づいて行っている。域外の超大国が、相互の対立が強くなりすぎて身動きが取れなくなった結果、域内国が自由に動ける、という矛盾した状況が生じているからだ。
ペルシャ湾の米国の同盟国は米国の安全保障上の約束の信頼性を疑っており、その結果、これらの諸国はイランとの関係改善に向かっている。米国では、米国抜きで中東は安定しないと信じられているが、現在、米国が関与しようがしまいが、域内の関係国が中東の安定化を進めている。
中国は、米国のように自らは域外に止まってサウジやイスラエルを使ってイランを牽制するような方法を避け、域内の紛争に対してより中立的なアプローチをしている。中国は、サウジとイランにとって最大の貿易相手であり、ペルシャ湾地域に石油供給の50%を依存していることから、イランとサウジの対立を弱める必要がある。次に中国がさらに一歩進んでサウジとイランの経済関係の強化を進めようとするかどうかが注目される。
サウジは、イランとの交渉に中国を関与させて中国がイランに圧力を掛けて交渉を纏めることが可能となった。他方、イランが得たものは、当面の間サウジがイスラエルと関係を正常化することを阻止し、さらに重要なのは両国がお互いに内政干渉を行わないことに合意したことである。
中東地域の安定化は、現地の国々、地域全体、そして、国際社会に利益をもたらす。イスラエルとイランの間で何らかの公式な協力関係を築くことはほとんど無理であろう。しかし、アブラハム合意とイラン・サウジ正常化が共存することは可能であり、中国の中立的な姿勢がそれに役立つであろう。つまり、サウジが最終的にアブラハム合意に参加し、同国がアブラハム合意とイラン・サウジ正常化との非公式な絆となるということである。
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上記の論説は、現在の中東の合従連衡を分析し、イスラエルが関与するアブラハム合意とイラン・サウジ正常化合意が共存し、サウジがアブラハム合意に参加できれば、中東全体の緊張緩和につながると予測する。なかなか面白い見方である。