この論説に限らず、現在、米国内ではサウジとイスラエルの関係正常化について色々と議論されているが、この論説も指摘している通り、イランがサウジとの関係を正常化した大きな理由の一つは、サウジ・イスラエル関係の正常化を妨害するためである。具体的には、イスラエルがイランの核施設空爆のためにサウジ領空や飛行場を利用することを阻止することが重要な目的の一つである。
また、サウジ側も万が一、米国やイスラエルとイランが武力衝突する場合に巻き添えを喰わないことを意図している。それゆえ、近い将来、サウジがイスラエルと関係を正常化する可能性はほとんどないのではないかと思われる。
中国は善意の仲介者ではない
上記の論説の筆者は、中国に対する理解が不足しているように見える。あたかも中国が善意の仲介者であるかのような誤解をしている。スリランカやアフリカのケースを見れば、中国は、一旦進出した国、地域に対して過剰なまでの介入と収奪を行うのが常であり、中東でおとなしく振る舞っているのは、まだ、その段階まで中国の影響力が高まっていないからだと推測される。中東で米国に取って代わる影響力を得るためには、中国が恒常的に中東に軍事力を展開できるようになる必要があるだろう。
中国は現時点で中東を政治・安全保障の対象ではなく、石油の重要な供給源および中国製品の市場と経済的な対象と見なしていると思われる一方で、米国の撤退で軍拡を進めているペルシャ湾岸諸国は、重要な中国製武器の市場となっている。しかし、サウジに弾道ミサイル製造施設を輸出したように、中国がこの地域の戦略バランスなどに頓着せず、ビジネスライクに武器などを売り続ければ、結果的にこの地域の安定性が損なわれるのではないかと考えられる。
たとえば、サウジは中国にウラン濃縮技術や使用済み核燃料の再処理技術で協力を求めていると伝えられるが、中国が中東における核開発問題に無頓着に核関連技術の技術供与を域内国に行えば、イランの核開発問題以上の大きな問題になる恐れがある。