一方、大卒→ホワイトカラーであることが成功者の証と見なされる傾向が続けば、中国の発展と建設を現場で担うブルーカラーの今後の育成と士気に影響が生じる。しかも、90年代半ばの高度成長スタートとともに都市に出てきた農村戸籍の労働者=農民工は高齢化を迎え、さりとて彼らに対する福利厚生は十分ではない中、彼らが従事してきたエッセンシャルワーカーは急速な人手不足が懸念されている。
中国は、十分に発展する前に急速な人口減少に直面するという「未富先老」の現実化に気づき、長年の一人っ子政策をかなぐり捨てて多産奨励へと舵を切ったものの、それが功を奏するかは不透明である。
発展を進めながら中国のための協調精神培養を
習近平新時代の中共が掲げる「共同富裕」は、このような中国改革開放史上未解決にして、しかも年々深まる諸問題に対する、習近平氏なりの総合的な荒療治である。
習近平氏のみるところ、「中国夢」とは、単に競争と発展の中で成功者を生むだけでなく、社会を支える誰もが中国の強さと豊かさを享受するものでなければならない。個人に豊かさを提供できず明るい未来を提供できない政権には支配の正統性はないため、自ずと危機感は継続中ということになる。
そこで中共は、「共同富裕」に努めて人々に調和と安定を提供し、人心を再建するために、なるべく競争原理の行き過ぎを食い止め、他者との協調と相互扶助の意識を植え付け、社会主義的・愛国主義的な道徳心を植え付け直そうとしている。とりわけ、「労働に貴賤なし」「労働こそ神聖だ」という価値観を全社会に浸透させ、あらゆる産業・労働市場にバランス良く人材を送り込もうとしている。
中共のこのような姿勢は、とりわけ人々を教え導く場面で果たしてどこまで功を奏することになるのか。その中から今後の中国の姿も見えてくることから注目しないわけには行かない。(後編に続く)