2024年11月22日(金)

不況を生き抜く管理会計

2009年4月15日

 ここでいまいちど「固定費とは何か」を確認しておこう。固定費とは売上に関係なく発生するコストだ。社員を何人か雇えば、それだけで年間にして億円単位の人件費が発生する。売上とは無関係に。固定費とは売れると売れないとに係わらず、年間○○億円と出ていくコストだ。図の「1個あたり固定費」とはこの年間固定費を「そのときの販売数量(210円時の販売数量)」で割ったら、たまたまその金額になったに過ぎない。固定費を1個あたりで計算した結果の数字に意味はない。1個あたりに割り算する前の、年間の金額にこそ意味があるワケだ。

 マクドナルドは210円バーガーの変動費(57.5円)の低さに注目して値下げを行った(成功条件その1)。その結果、20倍近い数量増加を達成したことで大幅増益となった(成功条件その2)。100円バーガーの円グラフでは、1個あたり固定費の金額が小さくなっていることがお分かりいただけるだろう。固定費は販売数量に関係なく発生している。販売数量が増えれば、当然、1個あたり固定費は小さくなる。結局、100円バーガーでは大幅な販売数量増加によって「1個あたり34.7円」という高収益性商品に変身したのだ。

値下げで失敗する例が多い理由

 成功条件1はクリアできても、成功条件2「販売数量の大幅増加」を達成するのは本当に難しい。その意味でこの成功条件2こそ「真の値下げ戦略の成功条件」と呼べるだろう。

 マクドナルドの大幅な販売数量増加には、ハンバーガーという商品の特性が大いに関係している。若者に人気のあるジャンクフードの代表であるハンバーガー。言うまでもなく人は食べねば生きていけない。貧乏な若者にとって、食費を以下に安く済ませるかは死活問題だ(?)。安く、しかも腹にたまるハンバーガーに若者たちは殺到した。しかもこのハンバーガーという商品、店で食べなくても自宅までお持ち帰りが可能だ。10個、20個とテイクアウトで買っていく若者もたくさんいた。こうした商品特性が驚異的な販売数量増加に結びついたのだ。

 またハンバーガーを提供するマクドナルドの企業努力も見逃せない。20倍近いハンバーガーを売り上げるためには物流・調理・接客などかなりの業務で大きな負担が掛かるはずだ。この業務量増加をこなしてはじめて販売数量を劇的にふやすことができる。こうした現場の努力も見過ごすことはできないだろう。

 さて、高速道路はどうか? 値下げによる大幅な数量増加は可能か?

 安いからといって「それなら高速道路に乗って旅行に行こう!」という人がどれだけいるだろうか?GWのふたを開けてみないと分からないが、何10倍ということはないと思う。もし仮に何10倍の自動車が殺到したら、渋滞が起こってみんな嫌気がさしてしまうだろう。・・・販売数量の大幅増加は難しいかもしれない。そうすると、通行量は増えても減益になってしまう事態もありうる。どんな商売でも値下げで成功できるわけではないのだ。

 次回は、この2つの成功条件に照らして、さまざまなビジネスが値下げで成功した事例、失敗した事例を取り上げたいと思う。それによって、いかに値下げで成功するのが難しいかを明らかにしていこう。

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